| Answer is approaching X |

| 「・・・・・・・・・」 おびただしい数のバイクや車のライトが、伊沢の姿を浮かび上がらせていた。 辺りに残って控えている鬼面党のメンバー達も、伊沢の方をチラチラと見るだけで近づくことはしない。 連合が総出で、鬼面潰しに参加しているチームを追っていた。 伊沢は公園で3人を潰した後、ビデオカメラからカードを抜き取り、アキラを病院に送った。 その後連合を召集し、高村に連絡をとった。 公園で倒した3人を、引きずって来させ――その時にかち合せた後から来たメンバーも、もちろん鬼面党が潰した。 今回の鬼面潰しに参加しているチーム名を全て吐かせた。 全ては敏速だった。 連合のメンバーを割り、それぞれのチームを潰しに行かせている。 一番大きなチームを除いて、鬼面潰しを始めたその夜に、関わった殆どのチームがすでに潰されていた。 「・・・・・・・・・・・・」 アキラは重傷だった。 腕の骨が折られていて、アバラと肩にもひびが入っていた。その他の裂傷や打撲は、数え切れないほどだった。 それに。 全く力のない、アキラの感触を思い出す。 医者が言っていた、アキラは筋肉弛緩剤を飲まされていたと。 ゾっとする。 自分が、あの時気づかなかったらと。 アキラの携帯のリダイヤルが、偶然に押されていなかったら。 ギリ、と強く噛んだ歯が音をたてる。 憤りという一言で片付けるには、あまりに激しすぎる感情に未だ自分の血の温度が高く感じる。 身体中が、怒りを上げている。 それを抑えるだけで、精一杯だった。 引きづられて来た男たちが、鬼面潰しの仲間の名を吐かされるのに、どれだけ悲惨な目にあったかは、残っていた鬼面のメンバーだけが知っていた。 残っている1番大きなチームの所在を知らせる連絡を待ちながら、鬼面党のメンバーは遠巻きにチラチラと伊沢を見ている。 彼に気づかれないように――いや、刺激しないようにか――誰もが、ボソボソと囁くように話していた。 「・・・・マジ、怖いっすよ、伊沢サン・・・」 「激怒ってるって」 高村もかなり怒ってはいるのだが、今の伊沢の押し殺された怒りの前にはそれさえもかすんで見える。 高村のように怒鳴り散らさないぶん、異様に恐ろしかった。 「・・・・・バカだよな、アイツらも」 言ったのは、ケンタ。 アイツラとはもちろん、鬼面潰しのメンバーのことである。 「アキラに、なんて、一番悪いところ狙っちゃって・・・」 ケンタたちもむろん、アキラを倒された怒りはあるのだが、副党首たちの怒りの強さに反対に冷静になってしまっていた。――命に別状がなく、すでにアキラが病院なのもある。 「遊佐のダンナも、そりゃー、スッゲー恐ろしい顔して飛び出して行ったもんな・・・」 「それに、あの伊沢サンが、関わったチームの息のかかったヤツは、末端まで完全に潰せって言うんだから・・・・・」 「怖ぇーよ」 「ああ、コエー」 ボソボソと交わされていた会話は、伊沢の携帯の呼び出し音にピタリと止まった。 2度鳴るのを待たず、伊沢がとる。 「――俺だ」 しばらく辺りが静まった。 伊沢は携帯を切る前に、周りの鬼面のメンバーを見渡しながら静かな――しかし鋭い声で言った。 「港だ」 その声に、ばっと鬼面党のメンバーが動く。 伊沢も携帯を切りながら、自分の車に乗り込んだ。 「――なんだッ」 苛立ちながら、遊佐は携帯をとった。 だが、 『・・・・どう、なった?』 聞こえてきた声に、打って変わったように声が柔らかくなる。 「――アキラか。рネんてして、大丈夫なのか? 身体が・・・」 『大丈夫だよ。電話くらい。・・・・それで、どうなった?』 「心配するな。今夜中にもカタがツク」 『――そうか。・・・・・・なんか、格好悪いな、俺』 その声に、彼女に手を出した男たちを、遊佐は胸の内で激しく罵った。 そしてアキラには、わざと明るく言う。 「今夜は無理だから、それ、明日また言ってくれ」 『???』 「バッチリ、役得で慰めてやれるから♪」 『!? ――ば、ばか! 何言ってるんだよッッ』 真っ赤になっているアキラが想像できて、遊佐は今度はわざとではなく笑った。 一言、二言話して、アキラは電話を切った。 携帯が完全に切れてから、遊佐の顔から笑顔が消える。 しばらくして、携帯が再びコールした。 携帯のメールが、港を知らせていた。 ――死ぬほど、後悔させてやる。 あいつに手を出したことを。 遊佐は再び、バイクを吹かした。 次の日の新聞は、港で重傷を負って発見された集団を大きく伝えていた。 |