『光らびた村』PATTAMANGALAM-精神世界=09 大樹祭1

そして、いま・・・・

 『石になった女たち』の伝説は、パッタマンガラム村周辺の村々ではとても有名だが、タミルの文化的中心地であるマドゥライやタンジョ―ルなどでは、ほとんど耳にしない。伝説というよりも土俗的な民話といったほうがよいだろう。
 パッタマンガラム村に行くと、この民話のとおり、巨大なバニヤンの大樹があり、その根元には六個の石が安置されている。大樹の樹令は2600年。高さは20数メ―トル余りだが、梢のひろがりはゆうに直径50メ―トルはあるだろうか。マドラスの神智学協会の庭園内にあるバニヤン樹の梢が占める直径は、約250メ―トルで世界最大といわれているが、一本の樹としての風格は、パッタマンガラムの大樹に軍配をあげたい。庭園内でぬくぬくと育った者とは桁はずれのたくましさを感じさせてくれるからだ。彼女はこの地方で最も乾いた土地になんと2600年余りを生きている。屋久島におわす縄文杉よりさらに年老いた格段の生命力を有する老木なのだ。
 6つの石は、そんな大樹が生まれるずっと以前の太古の時代から、重々しい彼女らの業を背負ってそこに在り続けたのかもしれない。あるいは、初めに伝承だけがあって、それにこじつけてどこからか6つの石を切出してきたのかもしれない。

 いずれにしろ、この民話は極めて古い時代に源を発するといえるだろう。幾星霜の時間を静かに見送ってきた大樹と石たちの風貌は、植物の王とそれに育まれてきた鉱物の王女としての風格に満ち満ちている。ただし、もし大樹がそこに芽生えなかったら、鉱物の王女たちは、醜く風化され形さえとどめていなかったかもしれない。

 村人たちは、六人の女たちを守ってくれたこの大樹を村の鎮守として奉り、「スワーミー」という称号を与えた。バニヤンの大樹「スワーミー」は、パッタマンガラム村そのものの御本尊なのである。

 実は、パッタマンガラムという村名自体もこの民話に由来している。タミル語で「美しさを失った,枯れた」という意味の「PATTA」と、女たちを意味する「MANGAYAR」が連なって「PATTAMANGAYAR」となり、いつしか「PATTAMANGALAM」と呼ばれるようになったそうだ。直訳すれば『枯れた女たちの里』ということになる。

僕は『枯れた女たちの里』パッタマンガラム村で、『光』を観た。

南インドの乾燥地域にある「ひからびた村」は、

いつしか僕の裡で

『光らびた村』となった。