
インドで聖なるものといえば、だれもが思い浮かべるのが聖牛だろう。ヒンドウー教徒の間では、シヴァ神の乗り物とされる白い牡牛ナンディーに象徴されるように、牛は一個の神格をもつ存在である。マヌ法典には、飲酒の罪を犯した者の罪滅ぽしとして乳・凝乳・ギー・尿・フンを混ぜ台わせたガツヴァという飲料を飲むことを規定しているほどだ。
にもかかわらず、この市場の傍らでは堂々と牛肉が売られている。牛といっても水牛だが、ヒンドウーにとっては身の毛もよだつことだろう。牛肉の消費者の筆頭は、何といってもキリスト教徒。イスラム教徒もいるが、ここでは少数派だ。ケーララ州はインド諸州の中でもキリスト教徒の比率が圧倒的に高く、全インドのキリスト教徒1422万人の約30%、人口の5人に一人がキリスト教徒なのである。
その歴史は非常に古く、紀元52年、キリストの12使徒のひとり、聖トマスの布教に姶まるとされている。ケーララの識字率が、他州と比べ66.62%と格別に高いのも、ミッション系の学校が津々浦々に設立されているからである。街のあちこちにあるキリスト教徒経営の食堂のメニュ−には、ビーフ・カリーやビーフ・フライが載っている。