2007/2月
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2月になった。
「もうそろそろふきのとうが生えていないかな」と、母と庭を探し歩いていると、枯れ草の間に小さなふきのとうを2つだけ見つけた。
細かく刻んで、味噌汁に浮かべる。あぁ、春近しの滋味である。

 
 
2月3日  

私の“冷え”を心配した夫が、ホームセンターでトタン製の湯たんぽ(800円)を買ってきてから一週間が経つ。寝ている間にゴロンと重い存在感に体が当たり、目が覚めてしまうことがあるのは難点だが、強い暖かさがじんわりと、冷えきったつま先に気持ちよくしみるのだ。
当然、翌朝は、湯たんぽの湯を洗面所のシンクにあけ、顔を洗う。儀式めいた感じがいい。

●わかめ湯豆腐

 
 

2月4日

 

 
  朝から強い風が吹いている。
外へ出て赤城山方向を見ると、裾野一帯が大規模に砂埃でピンク色に染まっている。ギョッとする光景だ。


 
 
    

ここ上州では、春の近づいた晴れた日は毎年こうなのである。自転車の進まない強風、「今、砂の中にいる」と確実に感じる砂嵐。砂まみれ。口の中がジャリジャリになる。そして、この時季を乗り越えれば春がやってくるのである。

ここのところ、父がひんぱんに牛ステーキ肉を買ってくる。父曰く「これを食べねば力が出ない」そうだが、我々にとっては胃への刺激が強すぎる。
ガスレンジのグリルで焼いて脂を落とし、大根おろしとポン酢醤油で食べると、胃への負担がやや軽くなるようだ。
こってりした肉を食べるとその数倍の青い野菜がほしくなる。

●ほうれん草のおひたし(ごまだれポン酢)

 
 
2月5日    

大音量とまではいかずとも、ある程度の音量で音楽を聴きたくなり、東京まで出かける。
行き先は入谷のライブハウス、竹内直(ts,bcl,fl)のソロライブだ。
竹内直は通常4、5人の編成で演奏することが多いのだが、たまにやるソロ演奏になると彼独特の絹のように繊細でありつつ豊かで壮絶な音の魅力がさらに際立つと感じる。なので私はソロ演奏を好んで聴きに行く。しかし、ソロ演奏の時はいつもお客さんが少ない。とてももったいないことだと思う。

 
 
    


「SOLO」(2003年)

  目をつむって聴いていると、地に立って、遙か彼方の山の頂に向かって音を発しているように聴こえてきた。これまでよりも、かなり土の香りの強い演奏だ、と思っていたら、最後に『こきりこ節』を歌っていた。なるほど。

●友人の待つ西荻窪にて鶏の唐揚げ
 
 
2月6日  

気候も暖かく気持ちのよい日、東京にて画廊巡り。
夜更けからは、日頃お世話になっている友人の誕生日宴会に合流。気持ちよく酔う。ずいぶんといろいろなものを御馳走になっていたというのに、私は夜中に鶏の唐揚げを買いに行ったらしい。酔いの醒めた翌日になって「昨日○○してたよ」と聞かされるのは恥ずかしいものだ。

 
 
2月8日  

実は夫が1月半ばから医者に酒を止められていた。この3週間、私の飲む焼酎の香りを深くかぎながらお茶を飲むという寂しい晩酌だった。
めでたく禁酒の解けたこの日、夫が「これが聴きたかったんだー!」と流し始めた音楽は泉邦宏の『Hu He Ha(フヘハ)』だった。ティンホイッスルによる素朴で軽やかな前半、後半は表現の核に迫ってゆくような妖しくも気持ちのよい演奏。楽しくて開放感のある作品である。

 
 
 

これまで毎日酒を飲んできた夫にとっては、3週間も禁酒するのは初めてのことで、「この旨さは毎日飲んでいる奴にはわかるまい」と、酒をたいそう旨そうに飲んでいた。 酒と音楽で気分上々、その後はエリック・ドルフィー、デューク・エリントン、渋谷毅、日吉川秋斉(浪曲)… 、音楽と共に夜は更けた。
酒と音楽は実に楽しい。

●わかめ湯豆腐

 


「Hu He Ha」(2006年)

 
 
2月9日  

少しずつ春めいてきている。この時季は、雨が降るのも春が近づくようで嬉しい。部屋の中にいると聴こえてくる車の走る音や犬の鳴く声も、湿気を帯びてやさしい音に聴こえる。

●ニラと干しエビのキムチ合え

 
 
2月10日  

各界で活躍する人が出身の小学校を訪ね授業をする、NHKの番組『課外授業 ようこそ先輩』に大好きな矢野顕子が出るというので見た。きっと誰にも何も教わって来なかったであろう天才(と私は思っている)矢野顕子がどんな授業をするのだろうかとドキドキ。
まずは小学生(6年生)たちと音を見つけに学校の給食室や保健室や校庭に出かけてみる。音はいろんなところに在ると気がつく子供たち。そして、彼らに出された宿題は、“自分の好きな音を探す・なぜその音が好きか考える・その音をどうしたいか考える”というものだった。
宿題を進めるうちに、子供達がそれぞれに“個”になってゆく。放送の初めには平べったい印象に見えた子供たちの顔が、それぞれの“個”としてクッキリと活き活きしてゆく。そんな様子を見て感動した。
何かが出来るようになる授業もいいが、何かに気がつく授業ってすてきだ。

●ほうれん草のおひたし(ごまだれポン酢)

 
 
2月11日  

春めいてくると、風景に少しずつ変化が出てくる。ただの木として見ていた木に芽を見つけ、それが日々大きくなっていることに気がつく。地面からも芽がのぞいている。
そんなことに気がつくと、 嬉しくなり、あれもこれもと描いてみたい気になる。だが、あれもこれも描こうとすると収拾がつかないのだ。まず、一つの画面には一つのものだけを描くのがいいのだろうな、と感じる。
というわけで、今日は新たにキャンバス張りをする。今年はどんな絵が出来あがるのだろうか。

●炒め納豆

 
 
2月13日    

春めいてはいるが、実は底冷えが厳しい。油断ならないのである。ここ数日、また熱を出してしまい、体調が悪い。今日は起き上がることができず、体に力も入らず、一日近く眠っていた。
絵も描けず、家事もできずにいるとひじょうに落ち込む。ふと“禁酒”が頭に浮かんでしまう。私も、焼酎の香りをかぎながらお茶を飲んでみようか… ってそんなことムリだ。

●ニラと干しエビのキムチ合え

 
 
2月17日    

これから先は暖かくなる一方だろうと思っていたが、ここ数日の冷え込みはとても厳しい。足下からキーンと冷えが伝わってくる。そして熱を出す。
寒さと対峙するということは疲れることのようで、寝込んでいる時間が長くなる。まるで冬眠だ。
部屋を暖かくしているので、体は汗をかくほどだが、足がとても冷える。
養命酒を飲みはじめることにした。養命酒、数年に一度は試してみるのだが、これといった手応えを感じたことはない。ただ、薬草の味がとてもおいしくて、しあわせな気持ちになるのだ。

●鶏の旨み鍋

 
 
2月18日    

日射しは暖かそうなのだが、強風が吹いている。とても寒い。今日も発熱。たくさん眠るはめになる。何もできない一日がうらめしい。

●れんこんの梅煮

 
 
2月19日  

今日もまた発熱。
今日は足湯用バケツを買ってきてもらった。かなりの大きさなので、これまで買うことを躊躇していたのだが、きっと“冷え”にいいに違いないと導入することにした。
やはり、大きい。裏っかえすと風呂イスになる仕組みだといいのに。

●ほうれん草のおひたし(ごまだれポン酢)

 
 
2月20日    

今日もまた発熱。かかりつけの病院でいつもの漢方薬の他にも薬を処方される。
夫の両親に「どんどん休めー」「ムリに働くことないんだよー」「気晴らしにどんどん東京へ行くのもいいさー」… などと理解と愛情にあふれた言葉をもらい、感激。
そのうえ、夜には特上の中トロまで買ってきてくれた。1さく3000円もする中トロは、切っている最中から包丁とまな板が脂でギトギトだ。背徳的な風情である。

近所の商店で見つけた富山の寒ブリ

 
 
2月21日    

今日もまた発熱。予定していた東京行きは断念だ。
制作はおろか、家事すらできないと気が滅入る。
私の体にいいだろうと、鶏レバーを買ってきた夫が「今日の夕食は俺が作る」と言う。氷水で血抜きをされた鶏レバーがまな板の上で切り揃えられている。「で、ここからどうしよう」と夫。そうなのだ、夫は料理が不得手なのである。そこで、私が横に立って指導することになった。そうして出来上がったこれはたいへんおいしかった。

●鶏レバーの紹興酒炒め

久しぶりに嗅ぐ、生姜とにんにくと紹興酒の香り。「そうだ、私には中華料理が足りなかったのだ」とふと思う。

 
 
2月22日    

今日もまた発熱。今日こそはと予定していた東京行きは断念する。
ふたたびこれを作ってもらう。

●鶏レバーの紹興酒炒め

 
 
2月23日    

今日もまた発熱。今日も東京行きはムリだった。
2年ほど前から飲みはじめた漢方薬で、私の体調はずいぶんと良くなったが、寒い時季になるとガクンと悪化する。例年、1月2月はほとんど寝込んでいる。本当は養命酒も足湯も寒くなる前からコツコツと取り入れるのがいいのだろうなと反省する。

●ピーマンとちりめんじゃこの煮びたし
↑紹興酒を加えて作ってみた

 
 
2月25日    

あまりの寒さに朝5時に目が覚めた。窓から部屋に入ってくる朝日の光が真っ赤なことにも驚いた。今日の寒さは尋常ではない。
朝早くに足湯を試み快適だったが、その後また発熱。寝込むようになってからもう16日が過ぎている。
少しずつは快方に向かっている感触はあるが、2月になると一昨年は16日、去年は23日も寝込んでいる。再びこんな状態になるのは困るので、このままにしておかず、もう一件ぐらい別の医者に診てもらうのがいいのだろうと、インターネットでいろいろと調べてみる。もちろんその最中、足は暖かい足湯バケツの中だ。
良さそうな診療所を3件までに絞り込んだ。どこにしようか… 賽でも振るか。

●ぬるぬるきのこ鍋

 
 
2月26日    

今日、そのうちの1件へ電話をかけて予約をした。
診療所の問診で“ぼへーっ”としてしまわないように、ここ数年の体調不良年表を作る。あまり楽しい作業ではなかったが、立派なものができあがった。
その後もネットで病や漢方について調べ続けていたが、気がつけば、診療所周辺の旨い店探しに熱中している。その診療所に決めた訳は他にちゃんとあるのだが、やはり本能なのか、“ふらふら歩けば旨いものに出くわす街”を選んでしまうのだな。医食同源。がぜん楽しみになってきた。

父が盛んに買ってきてくれるまぐろの刺身が食べきれずに余ってしまう。刺身で食すのに飽きた時にはこの食べ方で。ちょっと江戸風情がある。

●つゆまぐろ

 
 
2月27日  

なかなか熱が下がらず、制作をする力も湧かない。
足湯に浸かりながら、マティスの『画家のノート』(みすず書房)を読む。
思えばこの本と出会って以来(20年近くになる!)、制作のエンジンのかかる前の時季には必ず読んでいるような気がする。毎度毎度読むたびに、自分の制作する姿勢に勇気を与えられ、奮い立たされ、嬉しい気持ちになる。毎年飽きもせずそんな気になるのは、きっと、制作している間にはこの本の内容をすっかり忘れてしまっているからかもしれない。一年ぶり再会し、思い出したり、今までとは違う新しいことに気づいたり、頼もしい本である。

私がまぐろよりも白身の魚が好きだと知った父が、今日は鯛の刺身やいかの刺身をたくさん買ってきてくれた。そして、まぐろの刺身も。なので、今夜も。

●つゆまぐろ