左から、アグアド、ソル、カルリ
ギターを始めると、今でもこれらの人たちが作った練習曲に(比較的やさしいものから高度な物まで)つきあうことになる。それも魅力有るメロディーを持った練習曲が本当に多い。それをたとえば20世紀を代表する演奏家であるセゴビアなどがレコードで弾いてくれるから、ギター好きにはますますこれらの曲が魅力的に聞こえる。といった具合で、私も若い頃、それなりにつきあったが、残念ながら(というかあたりまえながら)セゴビアの奏でるような音楽には全く到達せず、上手くならなかった。結局、聴く専門になって現在に至っている。
ギター音楽が近代になってクラシック音楽の分野で再び受け入れられるようになってきたのは、19世紀末の「アルハンブラの想い出」や「アラビア風奇想曲」の作曲でも有名なフランシスコ・タレガ、「カタロニア民謡集」で有名なミゲル・リヨベートといった名手に始まり、20世紀に入ってエミール・プジョール、そしてなんといってもアンドレス・セゴビアの活躍に刺激を受けて多くの作曲家がギター作品を書き始めてからである。とくにセゴビアが、他の楽器用に作られた作品をギター用に編曲したり、多くの作家にギターの作品を委属したりして、ギター曲のレパートリ拡大に努力した結果、現在のような豊かな状況が生み出されたといってよい。
Spanish Guitar Music of Five Century Vol.1| ムダーラ:ルドビーコのハープを模した幻想曲 | サンス:スペイン組曲 |
| ミラン:6つのパバーナ | ソレール:ソナタ ホ長調 R.99 |
| ナルバエス:皇帝の歌 | ソレール:ソナタ ホ長調 R.92 |
| ナルバエス:<牡牛の番をして>による変奏曲 | |
| ピサドール:演奏容易なパバーナ | |
| ピサドール:ビリャネスカ |
Spanish Guitar Music of Five Century Vol.2| ソル:<魔笛>の主題による変奏曲 | ファリャ:ドビュッシーの墓への賛歌 |
| ソル:メヌエット OP.11-1 | ロドリーゴ:小麦畑で |
| ソル:メヌエット OP.11-6 | ハルフテル:マドリガル |
| タレガ:アルハンブラの想い出 | モレノ・トローバ:マドローニョス |
| タレガ:タンゴ | モンサルバージェ:ハバネラ |
| アルベニス:マラゲーニャ(<組曲>スペインより) | オアナ:ティエント |
| ルイス・ピポー:歌と踊り |
ジュリアン・ブリーム:Popular Classics for Spanish Guitar| ヴィラ・ロボス:ショーロス第1番 | アルベニス~ブリーム編:グラナダ~<スペイン組曲>より |
| ヴィラ・ロボス:練習曲 第11番 | アルベニス:伝説~旅の想い出(レイエンダ) |
| モレノ・トローバ:マドローニョス | ファリャ:ドビュッシーの墓のために |
| トゥリーナ:タレガ賛歌~ガロティーン | アメリア様の遺言(カタロニア民謡) |
| トゥリーナ:タレガ賛歌~ソレアーレス | トゥリーナ:ファンタギーリョ |
| ヴィラ・ロボス:前奏曲4番 |
これは、グラナドスのピアノ作品<スペイン舞曲>をギターに編曲した物。いくつかは良く単独で演奏されるが、このCDではマヌエル・バルエコの編曲・演奏により全曲を聴くことが出来る。また、ファリャの名作「7つのスペイン民謡」もソプラノ独唱+ギターによって聴くことが出来る。個別の曲では、セゴビアやジュリアン・ブリームの演奏も素晴らしいが、このバルエコの全曲演奏は快挙といって良い。バルエコは、アルベニスのスペイン組曲も全曲録音している。
アランフェス協奏曲については、多くのレコード、CDが出ていて、どれを選んでも楽しめるが、ここでは、アルヘンタ指揮、イェペス(ギター)による超有名盤を紹介しておく。アルヘンタは、スペインの指揮者で嘱望されていた人であるが、この録音の後、44才の若さで亡くなってしまった。アルヘンタに興味のある方は、「Espana」というタイトルの管弦楽作品を聞いて欲しい。シャブリエの同名タイトルから取ったもので、ダイナミックな演奏を聴くことが出来る。その他にも、チャイコフスキーの4番やベルリオーズの幻想交響曲を残している。
これは、ノーベル賞作家ヒメネスの詩で少年とロバの交流を描いた「プラテロと私」にインスピレーションを受け、イタリアのカステルヌーボ・テデスコが作曲した「プラテロと私」を中心としたレコード。このジャケットに描かれているロバがプラテロ。
ギター協奏曲といえば、ロドリーゴのアランフェス協奏曲が圧倒的に有名だが、このレコードは、ロドリーゴがセゴビアに捧げた「ある貴紳のための幻想曲」(1954年完成)と、メキシコの作曲家マヌエル・ポンセが同じくセゴビアのために作曲した「南の協奏曲」(1941年完成)の組み合わせ。この2曲だけでもセゴビアの偉大さが分かる。
この2枚は、アグアド、ソルの練習曲、グラナドスのスペイン舞曲、アルベニスのスペイン組曲、タンスマン、トゥリーナ、トローバ、ポンセといった人たちの有名曲を集めたもの。セゴビアの名演集であるとともにギター音楽入門用としても最適です。
ヴィラ・ロボスの「12の練習曲」と「5つの前奏曲」(イェペス演奏)
アグスティン・バリオス作品集(ジョン・ウィリアムズ演奏)
M.Ponce作品集(ジョン・ウィリアムズ)![]() |
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さて、ここで村冶 佳織さんの演奏になるGreenSleevesに登場してもらいましょう。小鳥のさえずりのなかで始まるタイトル曲は、まさに癒やしの音楽。このCDはとても人気が出たものですから改めて紹介するまでもありませんが、10代の村冶 佳織がみずみずしい感覚でバロック時代の曲を演奏しており、私はこれを聴いたとき、彼女の爪はとても柔軟性があるのではないかと感じました。ギター演奏にとって爪は音色を左右するとても大事なもので、このCDで聴かれる音色は10代の若々しい爪も貢献しているのではないかというのが私の感想。もちろん、音楽的な感性の面でのすばらしさが、人気のある理由であることはいうまでもない。この演奏と、ブリームの巨匠的な演奏を比較するのはちょっと乱暴なのだが、多分多くの日本人には、村冶 佳織さんの方が好ましく感じられるのではないだろうか。彼女の演奏にはどこかウェットな日本人の感性に訴えるものがある。しかし、これから彼女が国際的な舞台に広がると、だんだんブリーム的な力強い演奏になっていくのではないか、などと想像したりもします。いずれにせよ、これは、彼女の青春時代の貴重な演奏記録となるCDです。これからの活躍が楽しみな人です。
彼女のロドリーゴのギター曲集もついでに載せておきます。フランスに音楽留学した前後に録音・発売されたもので、上のGreenSleevesから約2年後の演奏。成長過程を示す1枚。
そういったギターとバイオリンの2重奏のCDは実は多くないが、私のお気に入りのCDを1枚紹介します。日本人が演奏した物で、藤田容子さん(バイオリン)、福田進一さん(ギター)の組合せで、AEOLUSレーベルから1992年に出た物(ACCD-S105)。このCDは、ジュリアーニ(1781-1829)の「ヴァイオリンとギターのための変奏曲イ短調 作品24-a」で始まる。哀調を帯びた出だしから、バラエティーに富む変奏を経て最後はポロネーズで締めくくられる、この種のものとしては規模の大きい15分を越える作品ですが、そのメロディーの美しさは最初に聴いた瞬間から心をとらえる作品。大好きな曲です。あとパガニーニのチェントーネ・ディ・ソナタの2番と4番、それとファリャの「7つのスペイン民謡」をバイオリンとギターの二重奏に編曲した作品が演奏されており、よく吟味された構成の充実した一夜のコンサートを聴いた気分にしてくれるCDです。
ギターはもともと伴奏楽器として発達したもので、ギター伴奏で歌うのは当たり前の風景。ここではそういったものの中で、ギター伴奏によるスペインのクラシック歌曲を紹介する。スペインの生んだ名メゾソプラノ、ベルガンサによる「スペインの歌」第1集と第2集。ギターはイェペス。第1集は中世からルネッサンスの古い時代の歌曲集で、ビウエラの時代の作品。第2集は今世紀の作品で、ファリャ「7つのスペイン民謡」と、詩人・劇作家でもあったガルシア・ロルカが採集した「13のスペイン古謡」が収められており、これらの曲を聴く場合に真っ先に取り上げるべきレコードと言えるだろう。
ベルガンサの歌うスペイン民謡は、とても洗練されているのだが、もっと土俗的な表現で聴かせるのが、このナチ・ミストラルである。この人もメゾソプラノで、フリューベック指揮の「恋は魔術師」の中でも歌っている。このレコードは、まったく偶然見つけたもので、ジャケットが破れ、ボロボロの状態だったのだが、ジャケットにGarcia Lorcaの文字を見つけ、一も二もなくレジに持っていったことを覚えている。ゴミ同然の値段だったが、今となっては貴重なレコードである。ロルカの作品は4曲しか歌っておらず、他はポピュラーソングというのが残念。このレコードで聴かれる表現の泥臭さは、最初は取っつきにくいが、慣れてくるとちょっと抗しがたい魅力があり、ときどき取り出しては聴いています。
| スカルラッティ:プレアンブロとアレグロ・ヴィヴォ | サティ:ジムノペディ 第1番 |
| ヘンデル:サラバンドと変奏 | サティ:ジムノペディ 第2番 |
| ヘンデル:メヌエット ニ長調 | サティ:ジムノペディ 第3番 |
| ヴィゼー:ジーグ | ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女 |
| ヴァイス:パッサカリア | プーランク:牧歌 |
| クープラン:神秘な防壁 | ラベル:眠りの森の美女のパバーヌ |
| ラベル:パゴダの女王 | |
| 伝承曲:アフロ・キューバン=ララバイ |
フラメンコ・ギターといえばなんと言ってもスペインが本場には違いないが、1950年代半ば頃にヨーロッパを訪れたフラメンコ音楽に興味を持つアメリカの知識人の間で、南フランスのアルルに比類のない名手がいると話題になったのが、ここで紹介するマニタス・デ・プラタである。マニタス・デ・プラタは、「銀の手」という通称で、本名をリカルド・バラードという。ただ通称の方が圧倒的に有名になってしまったので、ここでも、マニタス・デ・プラタで紹介する。