「El cobarde y los camaradas」
−卑怯者と仲間達−    Tea Agent様
 
 
  策略の前の静けさ 
  
  
  現在、破損した箇所の応急処置とグラウンド整備中。 
「では、ここでこれまでの試合を振り返ってみましょー! まずは一回表『太郎お好みやきんぐ』の攻撃は、ファーストバッターの老人がデッドボールのためテロリストが代走で出塁したものの、得点がないまま終わってしまいましたね。この回の攻防があまりに激しかったため、ファースト守備だった某ダリス市民が逃亡してしまいまして、代わりにテロリストが入っております。ちなみに老人の守備位置には、何処かの湖に出没していたモンスターがついています。あ、そうそう。モンスターと言えば、以前某騎士がモンスターとなにやら取引しているのを見た、という奇妙な噂が広まりましたね。それと同じ頃、見回りに行くはずだった若い騎士達の朝食に、下剤が混入されるという事件もありました。犯人や真偽のほどは定かではありませんが、恐ろしい世の中になったものです」 
  
  
その頃のクラインベンチ。 
「あのモンスター、もしかしてこの前湖で襲ってきた奴じゃあ・・・」 
「違う。私がとどめをさしたのを見たろう」 
「そうです、よね・・・きっと、モンスターの空似ですね」 
「いや。よく見てみろ、あいつの方が耳が少し大きい」 
「そうですか? 私にはさっぱりわかりませんけど・・・」 
  ・・・そりゃあ、誰にもわからんだろう。 
  
  
「一回裏、レオニスのホームランにより『花子たこやきらー』先制点!・・・だったのですが、二回表にエラーも手伝って『太郎おこのみやきんぐ』はすぐに逆転しております! これから、一点を追う『花子たこやきらー』の攻撃が始まろうとしています!! 
・・・えー、ここで素敵なお知らせがあります! 先制ホームランを打ったレオニス選手には、クライン商店街より50%割引券一枚が贈られます!」 
  ・・・一枚、というところに現実味がある。しかし、このお知らせにベンチは沸き立つのを通り越して、騒然としている。 
「いーなあー隊長ー」 
「うらやましいですわあー。それがあれば、あのピンクのヒラヒラドレスも買い放題ですわね」 
「待て、ディアーナ! なぜお前が、洋服屋のショウウィンドウに飾られている春物目玉商品を知っているのだ?!」 
  お前もだ、殿下。 
「おめでとーございますうー」 
「あのさあ、俺ちょっと欲しいのがあるんだけど」 
  チームメイトの声を一笑にふした彼は、大脳に従った。 
「・・・シルフィス、何が欲しい?」 
『花子たこやきらー』のショートはしばし得点ボードを見つめ、真剣な表情で答えた。 
「追加点でしょうか。これ以上離されると辛いです」 
  
  
「えー、続いて一回裏で好投を見せたノーチェ選手には・・・」 
「あら、私もなにか頂けるのですか?」 
  言葉は大変謙虚だが、力の入ったガッツポーズは実にたくましい。 
「直筆サイン入り『政務ノススメ』1年分(?)が贈られます! おめでとうございまーす!!」 
  途端、ノーチェの態度が豹変した。 
「なによそれはー!! 誰がいるかっ、そんな物! 薪代にもなりゃしない!!」 
  ベンチに当たり散らす彼女に、もはや神官としての穏やかさなど望むべくもない。怯えるチームメイトの中で、唯一余裕の笑みをうかべているのはミリエールである。 
「おほほほほほ、良かったじゃありませんの。古本屋にでも売り飛ばせば、消費税の足し位にはなるかもしれませんわ」 
  ・・・消費税があるのか? ついでに言うと、その本の著者は君達の国の皇太子という奴ではないか。 
  しかしノーチェは、そんな疑問などお構いなしにミリエールに食ってかかっている。 
「高笑いだけが能の小娘は黙ってなさい! そういう貴方は何ももらってないじゃない!」  
  確かに一理ある。ところがミリエールはまったく動じず、おそらく本試合最強の高笑いをしてのけた。 
「ほーほほほほ、『エンジャク イズクンゾ コウコクノ ココロザシヲ シランヤ』ですわ。私はもっと偉大な個人賞を狙っておりますの」 
  ・・・チームの優勝は? 
  もちろん、この問いを投げかけられたチームメイトは一人もいないに違いない。 
  それよりなによりも、両ベンチからどよめきが起こっている。 
  そう、彼等は忘れていた。                           
  この試合には、最優秀選手賞というすばらしいものがあるということを。 
  全選手の期待に満ち満ちた視線に答えるべく、ついに誰一人として知らなかった賞の全容が明らかにされた。 
「なお、試合終了後に発表される最優秀選手賞、通称MVPに選ばれた選手には・・・なんと! 三日間の有休(ペア)がプレゼントされます!!」 
「おおー!!」 
  両ベンチから歓声がわき起こる。・・・というのも、これまでの試合経過からいって本試合の観戦を続けることは命懸けであることを悟った観客が、ほとんど逃走してしまったためである。 
  だが、そんなことはもはや関係がない。そもそもこの親善試合自体、観客を喜ばせるためのものではないのだから。 
  すでに両チームとも、チーム貢献などということを考えている者はなきに等しい。そこはひたすら個人の欲望のために策略をめぐらす、人生の縮図と呼ぶにふさわしい戦場と化していた。 
  「海外旅行とか温泉旅行とかではないところに両国の財政状況が見え隠れしておりますが、そんなことは気にしなーい! 下手なものをもらうよりはよほどいいでしょう!! ああうらやましい!!」 
  万年有休同然である実況担当者の声がグラウンドにこだますると同時に、二回裏の準備も整ったようである。 
 
 
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    お待たせしました! 連載再開です。その前に総集編を付けてくださるとは、なんと親切な! 
    豪快なサブキャラ女性陣がステキです。 
    さあ、今後の展開から目が離せませんね〜♪ 
   
 
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