甘い接吻
〜時代劇浪漫譚妖恋話−其之八之四〜
(Written by まりあ さま)
〜大奥擾乱四之段〜
後日、レオニス達は秘密裏に呼び出された。
「今日はどんな用件なんでしょう?」
先日終わったばかりなのにと訝しがりながら、シルフィスはレオニスの後をぴたりと付き歩く。
「・・・さて、どうしたものだろうな」
また仕事であったら、それこそレオニスとて黙っている訳でもなさそうだ。人使いの荒い上様に仕える身とはいえ、恋人とそうそう離れ離れな事ばかりでは溜まったものではあるまい。やっと懐に戻ってきた愛らしいシルフィスと仕事を終えてから、みっちりと時間を取り戻したが、まだまだ満足する様な若旦那では無かった。
城の隣に立てられた寺の茶室に呼ばれた彼らは、そこで意外な人物と出会う事になる。そこには、将軍だけではなく、先日輿入れをしたリリア姫も同席であった。
「改めて、初めまして」
リリア姫は、穏やかに微笑む。新しい役目だとは思わなかったが、まさか御台所まで直々に登場するとは思ってもいなかった二人である。
「・・・どうしても、きちんと君達に礼を言いたいといってね」
セイリオスがそう告げると、リリアはにこやかな笑みを浮かべながら、二人に改めて礼を言った。
「・・・いえ、職務ですから」
何時もこき使われているせいか、柔和な感じの姫君に流石のレオニスもシルフィスと同様に戸惑っている様である。
「・・・殿がいつも世話になっているご様子で、ご迷惑を掛けていないでしょうか?」
リリアがそう尋ねると、レオニスもはいとも言えず、またシルフィスもそれには否定する様な言葉は返せなかった。
「こらこら、私は人使いが荒いと言う訳かい?」
苦笑混じりにセイリオスがいうと、リリアは扇で口元を隠しながら、コバルトブルーの瞳を細めた。
「・・・シオン殿から直に聞きましたが」
「全く、シオンの奴め。いきなり何を告げ口したのやら・・・」
セイリオスは、吐息混じりにいうと、リリアは優しそうに穏やかに彼を見詰めた。
「しっかりしているだろう。・・・実は、長い間私が誰も娶らなかった理由は彼女にあるのだよ。ずっと以前から求婚の申し出をしているのに、中々承知の返事をくれなんだ」
セイリオスの意外な言葉に、レオニスもシルフィスも驚き、目を見開いた。
「将軍の妻として粗相があっては参りませんから。・・・きちんと作法も収めてからではありませんと、心持ち不安でなりません」
穏やかに微笑む彼女は、その才能をけしてひけらかすのではなくあくまでも控えめでありながら、その端々から才能が満ち溢れている様であった。
「ま、・・・妻も同様に頼むよ。レオニス、シルフィス」
セイリオスが言うと、レオニスもシルフィスも、臣下の礼を取った。リリアは、穏やかに笑みを浮かべ、宜しくお願いしますと甲斐甲斐しくも彼らに声を掛けた。
「さて、私達はそろそろいくよ。本当に助かった。特に、シルフィスには苦しい役目をさせたね。本当に妻が君に感謝をしているよ。・・・その代わりといってはなんだけど、君達に特別休暇と褒美をあげよう。存分に楽しんでくると良い」
セイリオスは、立ち上がり、先へと先導する。リリアは、それではとお辞儀をし、将軍の後に出て行く。茶室から出ると、彼女は将軍とは逆の方へと歩き始める。それに気が付いた彼は、訝しそうに後ろを振り返った。
「・・・リリア。何処へ行くつもりかい?」
「・・えっと、その、城へ」
「そちらではないよ。あちらに見えるのが、私達の棲む城だよ。全く君はしっかりしていると思えば、意外とおっちょこちょいというか、方向音痴なのは昔も今も変わらないね」
「・・・殿!」
真っ赤になって怒るリリアに、彼はくすくすと笑い返す。将軍は、諌めながらも妻の手を取り、一緒に城へと戻っていった。そのまま、大奥にあるリリアの部屋にいくらしい。
そんな二人の背を見送りながら、レオニスとシルフィスは、顔を見合わせ、やがてくすくすと笑いあった。
「・・・面白い奥方だな」
「はい。でも、とてもお似合いです」
手を取りながら、楽しそうに会話を弾ませ去っていく将軍夫妻を羨ましそうにシルフィスは目を細め、見送った。
「・・・羨ましいか?」
「はい。えっ!?あの、そのっ・・・」
レオニスの突然の問いに、シルフィスは条件反射で返事をし、それから慌てふためく。そんな少女の慌て振りに、レオニスは僅かに笑みを漏らし、彼女を抱き寄せた。
「頂いた特別休暇で、上様達が羨ましいなどと言わせない様にしてやろう」
耳元で態と囁くと、シルフィスの頬は途端に林檎色に染まった。
「だ、旦那様・・・」
レオニスは、満足そうに笑みを浮かべると、骨董屋へと彼女を伴い戻っていった。
後日、任務を無事に終え、将軍直接休みを貰った彼らには、何と熱海の温泉の褒美が遣わされたという。そして、その旅行先で、シルフィスが若旦那に翻弄されたことは言うまでも無い。
了
作者の言葉・・・こんなんで良いのでしょうか?セイリオスの奥さん、オリキャラで勝手に決めちゃったけど(笑)。セイルファンの方、ごめんなざい。リリアの名前を決めて下さったトロワさんと聖さんに多謝。
それにしても、ファンタって本当に女性キャラ少ないんだもん。あぶれちゃうの可哀相っていつも思うんですよ。(・・・何だかセイルよりな書き方しているのは私のDNAが書かれたせいでしょう。御免なさい、さーふぃさん。なんでしたら、番外編扱いでお願いします)
それと関係ないですが、もっと大奥を縦横無尽に暴れさせる予定だったのですが、何だかあんまり設定を生かせなかった(;;)。
感謝の言葉すっごく大作です!この時代の知識ゼロの私としては、ただ感嘆するばかりです。初登場のノーチェ(エルディーア)、オリジナルキャラのリリア。十分その存在を活かし切っていて、とても面白かったです。
ここで初めてキールの出番もありましたね(笑)。それにしても、さすがセイリオス……というか、シオンよりもレオニスやシルフィスを大いに振り回していますね。これからはリリア姫が何とか手綱を引いてくれるでしょうか?
素敵な力作をありがとうございました!