前回の投稿以後、検討結果が公表されて、小泉改革の方向が少しずつ見えてきました。
まず、そのおさらいから。
2001年6月26日には、
「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」
、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定されました。
骨太方針は、
概要版や、
パンフレットをごらんになるのが、便利です。
これによって、改革の大きな方向が定まったといえます。
この骨太方針では、
まず、不良債権問題を2 〜3 年内に解決することを目指すと言っています。
また、次の7つの構造改革プログラムを進めることになっています。
1 .民営化・規制改革プログラム〜民間が自由に経済活動を行える社会
2 .チャレンジャー支援プログラム〜「頑張りがいのある社会システム」
3 .保険機能強化プログラム〜 国民の「安心」と生活の「安定」
4 .知的資産倍増プログラム〜「個人の選択の自由の下での人材育成」
5 .生活維新プログラム〜「のびのびと働き、生活できる基盤整備」
6 .地方自立・活性化プログラム〜地方ができることは地方に
7 .財政改革プログラム〜21 世紀にふさわしい簡素で効率的な政府の実現
その後、9月7日には、
当面の経済財政運営についての閣議における指示が、小泉総理から閣僚に対して出されましたが、
そのなかには、国民に分かりやすい形で『改革工程表』を明らかにすることと、
先行して決定・実施すべき施策を『改革先行プログラム』としてとりまとめることが含まれています。
9月14日には、さらに、
「改革先行プログラム」の具体的内容について
という、内閣総理大臣指示が出されています。
私も、これらを見る限りでは、だいたいは賛成できるかなと思っています。
前回の投稿に対していただいた意見をみてみますと、
私の論が、小泉改革に反対していると理解されたようですが、
今のところは、改革の基本方向は正しいように思っています。
私は、現在の日本に改革が必要であるという立場に立っていますが、
改革をすればよいのではなく、どのような改革をするかが重要だと考えています。
ようやく、改革をするという総論は定まってきたように思いますので、
改革の各論が重要ではないかと訴え、そのための論点を読者に提供しているつもりです。
国民主権国家ですから、改革の方向を決めるのは、私たち国民の議論です。
小泉さんがいくらハンサムでも、あなた任せの民主主義はいけません。
「痛み」を伴う構造改革だと言われていますが、いったい誰が痛むのでしょうか。
今回の選挙で国民は改革の痛みを覚悟したという論調も一部にありますが、そんなわけはありません。
痛むのはほかの人だと思っているので、改革を支持した人が多いのではないでしょうか。
改革で「痛み」を受けることが分かっている人たちは、真剣になって改革を阻止しようとしました。
郵政関係では、民営化の反対論者を政界に送り込むために、選挙違反を犯していたことが明るみに出ました。
とても厳しい雇用情勢の中で、とうとう
完全失業率が5%を記録しました。
厳しい経済情勢のなかで、勤労者が「痛み」を感じていることは確かです。
企業は、厳しい経済情勢の中で生き残りをかけて、経営革新に取り組んでいます。
人件費をいかに切りつめるかということは、経営にとっては、大きな要素です。
生産を減らさずに人を減らすことは、企業経営にとってはとても良いことなのです。
経営体質も強化され、国際競争力も付くでしょう。
ということは、今後、企業の経営体質が改善されるにつれて、雇用吸収力は小さくなると考えなければなりません。
このあたりは、
「景気の回復と雇用」で少しだけ書きました。
小泉内閣は、金融機関の再生のために、不良債権処理を急ぐとも言っています。
バブルの崩壊以後、日本の金融機能が低下していて、経済全体に悪影響を与えていると言われます。
その意味で、金融機関を早く健全化したいというのは理解できます。
しかし、国民が疑問視するなかで公的資金を注ぎ込みましたが、不良債権は増える一方です。
それは当たり前で、景気が悪くなれば、企業の業績は悪化し、
それまでは優良債権だったものが、どんどん不良債権化しているのです。
バルブを閉めずに水をくみ出しているようなもので、キリがありません。
不良債権の処理を急ぎますと、銀行は、少しでも危ない会社には貸しません。
少しでも業績が悪化しそうなら、早めに債権を回収しようとします。
これでは、金融機関の経済に果たすべき役割を果たしていることにはなりません。
以前、NHKで見ましたが、パソコンの夜明け時代、アメリカでのことです、
高校生だかがパソコンを組み立てて売るビジネスを考えました。
銀行に2000ドルの融資を頼みに行きました。
銀行の頭取は、熱心にビジネスの計画に耳を傾け、ポンと融資したそうです。
日本の銀行ならどうするでしょうか。
「子ども」の言うことに真剣に耳を傾ける銀行家がいるでしょうか。
リスクの高いビジネスに担保を取らずに融資するでしょうか。
この融資のおかげで、今日の大電脳会社があるのだそうです。
ベンチャー企業に対するこのような姿勢こそが、今の日本の経済には必要だと思えてなりません。
不良債権の処理を進めると、産業構造の改革は遅れる方向にはたらきます。
もう一つ影響があるのは、資金を引き揚げられた企業は、
経営を縮小したり、倒産したりしますから、不景気を加速し、失業を増やす方向に働きます。
構造改革のためにも、まず金融機関の機能を再生してから、という判断もありえますが、
今までの経過をみると、余りうまくいきそうにはないな、と経済の素人なりに心配です。
このままでは、とりあえず「痛み」を我慢しなければならないのは、
勤労者と中小企業ということになりそうに、思われます。
「改革先行プログラム」の具体的内容について(2001年9月14日内閣総理大臣指示)で、
雇用・中小企業に係るセーフティーネットの充実を図ることになっていますが、
これも、逆読みすれば、そういうことに聞こえてきます。
小泉首相は、「米百俵」を例に出して、長い目でみて構造改革への支持を訴えたのですが、
しばらく辛抱して欲しいというのは、ひょっとして勤労者に向けられた言葉なのかもしれません。