三木二寸のあれも言いたいこれも言いたい

    構造改革を考える
土建業から介護業へ

2002年3月17日


 2002年2月23日付けの読売新聞に、 「業界挙げて地域の介護事業」という見出しで、 福島県建設業協会の佐藤勝三会長が寄稿してみえました。
例によって要約すると、
○福島県の建設業界を挙げて介護事業に取り組んでいる。
○各社の従業員161人がホームヘルパー2級の研修中である。
○業界有志で介護事業会社を設立、4月から訪問介護事業を始める。
○地域の雇用を支えてきた建設業界も、大量の離職者が出るのは避けられない。
○福島県の建設産業全体の従事者は約13万人、3分の1程度は他産業へ移る必要がでてくる。
○建設業界が地域介護を支える役割を果たすのは最適。
○建設会社はどんな小さな町村にもある。
○階段のてすりなど、建設業者が介護の視点をもつことで新たな改築需要が掘り起こせる。
○福島県では、3年間で1万人のホームヘルパーを誕生させたい。

 これは、素晴らしい発想です。このような発想をもちえないので、 わが国経済の立ち直りの展望がもてないのです。
失礼ですが、建設業界にこのような柔軟な考え方があるとは、想像も出来ませんでした。
「構造改革で痛むべきは誰か・痛むべきは既得権者」 で書きましたが、会長のおしゃるとおり、 建設業界は、高度成長を支える役割を終えて、構造不況業種になろうとしている。
公共事業にしがみついて、地域経済を考える時代は終わった。
逆に、介護の需要は、これから増える一方だと思います。
 なお、福島県建設業協会は、県内建設業者387社を会員とする社団法人。
2001年度の従業員合計は1万3000人で、4年前より5000人も減っているのだそうです。

 ところで、介護の需要は今でもかなりあるはずなのですが、 なかなか顕在化してきません。
一つは、日本の介護は家族介護に頼っていたので、 他人にお願いするという感覚にならない。
しかし、介護の素人の家族より、介護のプロに任せる方が、 介護の水準は高くなるし、介護を受ける側の満足も高くなるはずです。
プロより家族の方が愛情細やかに介護できるという意見がありそうですが、 介護疲れで非介護者を憎く思ったことがあると、介護にあたる家族は答えています。
介護はプロに任せて家族は愛情だけを注ぐ方が良いとは思いませんか。

 もう一つには、貧弱な福祉政策があります。
このあたりは、東大教授の神野直彦先生の「システム改革の政治経済学」(1998年岩波書店)という本が 見事に分析していますので、ご紹介します。
第二次大戦後、先進諸国は、 「戦時税制によって調達されていた戦費が戦後に減少していくのに対し、 社会保障関係費を増加」させていくのですが、 日本ではそのような政策はとられませんでした。
先進諸国と比較すると、「日本の社会保障給付費の低水準は歴然としてして」おり、 「政府固定資本形成を見ると、日本の高水準は先進諸国の中でも突出している。 つまり、日本は第二次大戦後に、『福祉国家』ならぬ『土木事業国家』を定着させてしまった」 というのです。
福祉政策が貧弱で、未だに救貧的、慈善的な福祉の域を出られないところに、 介護の需要があっても、現実には介護市場が形成されない理由があります。
構造改革とは、このようなことも含めて、政策を考えなければなりません。

 以前、紹介した 専修大学教授・野口 旭先生の「構造改革と景気」 によると、構造改革というのは、 労働力なども含めた生産資源をより効果的な分野にシフトさせることらしい。
現実に需要が発生している場合は、規制を緩和したりすれば、 市場メカニズムによって需要に合わせて生産力がシフトしていきます。
しかし、需要が潜在化している場合は、 それを顕在化させなければならないし、 福祉の分野などは、政府の関与がなければ、いつまでも潜在化したままでしょう。

 福祉政策に政府が不熱心であったわけも、 ご紹介した神野先生の著書では、学問的に分析されています。
それはそれで是非読んでいただきたいのですが、 素人の私たちは、簡単に、 税金が上がることを用心する財界を中心に、 福祉は余分なことで、社会全体の負担になることだという見方が 広がっているためだと考えていいと思います。

 しかし、これに対しては、次の4点にわたって反論したいと思います。
第1に、今問題になっているのは、経済が成長しないということですが、 福祉産業は条件が整えば何兆円単位の市場だと見られています。
家族介護は経済成長に寄与しませんが、 福祉産業なら経済の拡大に寄与します。
第2に雇用の確保も問題になっていますが、 介護サービスは人手が要りますので、雇用力があります。
人手の固まりのようなサービス産業は、確かに効率は悪いのですが、 国際競争をする分野ではありません。
いわゆる成長産業は、成長すればするほど、 労働生産性が高くなって、人手は要らなくなります。
リストラの山を乗り越えて、国際競争に勝っても、人々は幸せになれません。
 第3に、日本が抱えている将来の問題として、少子化があります。
これは、働き手が少なくなって経済を支えられなくなる、 という言い方で、大変だと騒がれているのですが、 ならば、貴重な労働力を介護のために家庭に縛り付けるというのは、 いかにももったいないと思いませんか。
福祉政策をきちんとすることは、労働力確保につながります。
 第4に、福祉政策は、人々の安心を支え、人々を幸せにします。
 こんな良いことづくめだのに、小泉内閣は、明確な政策を示していません。

小泉さんの構造改革も、是非、 過去の需要を支えていた業界から、 新たな需要を開拓して、そこに供給をシフトさせる、 その具体的な政策を、是非示してほしいものです。



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