1999年9月
所長からのメッセージ



■ 突然出てきた中小企業支援制度 ■


 小渕総理が突然相続税減税を表明しました。とりあえずは最高税率70%の引き下げという話でしたが、8月31日、宮沢蔵相も最高税率ばかりでなく税率構造全体の見直しを表明しましたので、一気に具体化していくと思われます。と同時に、20年近く放っておかれた贈与税の減税も具体化に入る見通しです。単純に相続税だけを考えてみた場合、今ここで是非とも減税が必要とも思われません。

 先月発表された平成11年分の路線価は7年連続の下落となりました。平成10年分の路線価の下落率は5%と下げ止まり感が出ていましたが、今回の下落率は7.1%ということで、地価はまだまだ下げ止まったわけではないようです。これで殆どの地域において、路線価はバブル前の水準に戻りました。その上、バブル期の地価の高騰に対処すべく各種の減税措置がとられています。相続税の税率も引き下げられていますし、200uまでの小規模宅地の評価についても最大80%の評価減が認められています。

 こうしてみると、現在相続税の減税が必要かな?とも思います。特に中小企業の事業承継に関連して、今回の減税の話が出てきたようですが、それならば事業用の土地の評価と、自社株の評価方法を改正すればよいと思うのですが、なぜか単純に「税率の引き下げ」となってしまったようです。個人資産家にとっては「ラッキー」という感じの今回の措置です。

 贈与税についても最高税率が50%に引き下げられる予定ですので、本年中の多額の贈与は当然見合わせるべきです。ここで突如相続税の減税表明が行われた背景には、今度の国会を「中小企業国会」としたい小渕総理の強い意向の現れと思われます。相続税減税ばかりでなく、中小企業支援制度も続々と発表されています。これらの施策は「中小・ベンチャー支援策」と総称されていますが、私は「中小」と「ベンチャー」の意味合いは全く違うと思います。冷たい言い方をすれば、自由経済における競争社会において、いたずらに中小企業を保護してみても意味はありません。かえって日本全体の競争力の低下につながる怖れさえあります。逆に業態、業種によっては廃業を促進する必要もあると思います。それを既存の中小企業をすべて保護しようとする観点から講じられる施策には首を傾げざるを得ません。

 一方エンジェル税制といわれる、ベンチャー企業に対する出資に関わる税制上の恩典については大いに評価出来ます。何しろ向こう5年間で起業件数を倍増させることを目標にするそうですからびっくりします。もっともベンチャー支援を強力に打ち出すことは結構ですが、起業数の目標数字を掲げるところが本当に役人の発想という感じで笑ってしまいます。まず目標数字あるいは消化すべき予算が先にあるんですね。そしてこの予算を必死で消化するためにたいして有望でもない企業までにお金を突っ込むのでしょうね。とてもインターネット関連企業の成長性の判断をお役人が出来るとは考えられませんが・・・・・

 何回もお話している、政府の安定化融資の20兆円の枠を必死で消化すべく大盤振る舞いをやっているように、世の中の動きがわかっていない役人が、訳も分からない企業に闇雲に投資をして、結局焦げ付かせてしまう危険性が高いと思います。各業種ごとに当該企業の成長性が判断できるアナリストにでも出向してもらった方が良いと思います。

 また投資意欲の高い投資家にとっては魅力的な税制も考えられているようです。現在では未公開企業に対する出資が紙屑になっても税制上の恩典はありませんが、ベンチャー企業の資金調達を円滑に行えるようにと、ベンチャー企業に対する投資損失については他の所得との通算が認められる予定です。また、各種のベンチャ−企業に対する融資制度や助成金、補助金についても予算化されるようなので期待できると思います。



■ インターネット革命 ■


 今、世の中はネットブームと言うよりはネット関連株に対する投資がブームで、インターネット関連企業ならばいくらでもお金が集まる状況です。公募価格4,600円のソフトバンクテクノロジーの寄り付き価額が40,000円(現在は100,000円を超えています)、同じくインターネットプロバイダー初の公開となったインターQは公募価格4,200円に対して寄り付き価格は21,000円(現在は28,000円)です。

 これではいくらでもお金が集まるはずです。有望な子会社、関連会社群を作りたいソフトバンクや光通信は数百億円単位のファンドを作って投資業務を展開しています。もちろんいくらインターネット関連が有望だといっても、すべてのビジネスが収益に結びつくわけではありません。特にネット決済が法制化されていない現在の状況では、インターネット通販には限界があると思います。それでもインターネット抜きで今後の日本での経済活動は考えられません。一度、最も人気のある「楽天市場」のサイトをご覧になって下さい。

 私自身は日本のビジネスはネットにのるビジネスかのらないビジネスかの大きく2つに分けられると思います。私自身の業務をみても、公認会計士としての監査業務はインターネットに取って代わられることはないと思いますが、税理士業務についてはかなりの部分がインターネット上で行われることになってしまうでしょう。 最近ソフトバンクの北尾常務の話を聞く機会がありました。ソフトバンク金融システムの立て役者とでも言うべき元野村証券の事業法人部長です。奇しくも私の大学の1年先輩であり、且つ野村証券の1年先輩でもあります。(人間としての図太さ、スケールの大きさは天と地ほども違いますが)

 彼に言わせると、現在はまさに「インターネット革命」が進行中で、その根拠として米国における主要メディアの利用者数が5000万人に達するまでに要した時間は以下の通りです。

 新聞・・・100年
 ラジオ・・・38年
 テレビ・・・13年
 ケーブルテレビ・・・10年
 インターネット・・・5年
 そしてこのインターネットでのビジネスチャンスを業種毎に考えると下の図のようになるそうです。


 要するに嗜好品ほどインターネットにはのりにくく、最も商品、サービスが多様な金融サービスがインターネットと最も親和性が高いということです。それはインターネットがもつ「低コスト」「リアルタイム」「マルチメディア」「インタラクティブ(双方向性)」「グローバル」の5つの特性が最も金融業界の変革に結びつくものだからです。

 すなわち「低コスト」は少人数・少店舗を可能にし「リアルタイム」は迅速な情報提供を可能にし「マルチメディア」によって豊富な情報提供が可能になり、「インタラクティブ」によって細かな顧客ニーズへの対応も可能にし、「グローバル」がもたらす世界規模での情報収集・提供が変革を招くわけです。みなさんもこの5つのインターネットの特性をよく理解され、ご自分のビジネスにどのように影響があるか、またどのようにインターネットをご自分のビジネスに利用できるか検討されるべきだと思います。

 何でみんなインターネット、インターネットと騒いでいるんだ?と思っている方はテープでも何でも結構ですから、是非、孫正義氏の生のインターネット戦略を聞いてみることをお薦めします。



■ 株式投資をする方が頭に入れておくべきこと ■


 10月1日の株式交換制度開始を目前にして、我が国でも俄に高株価経営が注目されるようになりました。高株価経営を目指す企業にとって最大関心事は自社の時価総額、すなわち株価×発行済み株数です。時価総額=企業価値という考え方が強まって来ています。高株価経営の代名詞とでも言うべきソフトバンクの時価総額は単独で3兆円、グループ全体で10兆円にもなります。先日第1部市場に上場した光通信も時価総額は1兆8000億円とJR東海ばかりかDDIをも上回っています。

 時価総額から株主資本を差し引いたものがMVA(市場付加価値)このMVAを株主資本で割ったもの(MVA・オーバー・エクイティ)を最大化させること、これが孫社長の経営方針です。

 ソフトバンクのMVA・オーバー・エクイティは9.5倍、因みにNTTのMVA・オーバー・エクイティは3.8倍、トヨタ自動車のそれは2倍、一方でセブンイレブンは9.8倍、マイクロソフトは17.5倍、デルは37.6倍です。この10月から純粋持株会社に移行するソフトバンクにとってグループ会社のキャッシュフローを極大化させるとともに成長が見込めるインターネット関連企業に先行投資を積極的に行っていく必要があるのです。

 経営者がこのような考え方に立った会社とそうでない会社の株価は全く違った物になる可能性を秘めています。たとえグループ企業の業績が変わらなくても持株会社の株価が上昇すれば企業価値,MVAは上昇します。株価を重視しているというよりも株価を引き上げていく宿命を背負っている会社とそうでない会社の株価に開きが出てくることは当たり前のことです。

 10月1日以降、株式交換すなわちストック・イクスチェンジのニュースが続々報道されると思いますが、これらに登場する会社の株価が下がったときにひっそり買っておけば、案外大きな儲けが得られるのではないでしょうか。



■ やはりY2K ■


 1999年9月9日を前に8日の短期金利が急騰しました。慎重な人は8日に預金をだいぶおろしたようです。金融機関も手持ちのキャッシュポジションを高めたために起きた現象のようです。今後ことあるたびに2000年問題に備えた金融市場の動きが報道されると思います。やはり年末には相当の現金を用意しておいた方が良さそうです。新年の株式市場で株を買うことが出来るのは手元に現金を置いておいた方だけかも知れません。金庫が本当に必要になってきそうです。



■ 事務所旅行のお知らせ ■


 2年に一度の事務所旅行の季節となりました。今年は、9月23日〜27日の5日間の予定です。つきましては、24日(金)と27日(月)は事務所を休ませていただきますので、宜しくお願いいたします。
 旅行中に突然の税務調査が行われることはないと思いますが、もしも税務署から接触がありましたら、28日まで待ってもらって下さい。戻り次第、至急対応いたします。



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