■ まだまだ続く米国企業に対する不信 ■


 アメリカ経済に対する不信感が高まる中で、米国第2位の通信会社ワールドコムの38億ドル(約4,500億円)の不正経理が発覚しました。不正の内容は経費として計上しなければならない支出を無形資産として計上し、損益を歪めるとともに、最近流行の経営指標であるEBITDA(イービットディーエーあるいはイービットダー等と発音します)の数値を異常に大きく見せたものです。

 EBITDAは企業業績の評価に用いられる指標で、金利・税金・償却前利益を表しますが、非現金支出である償却前の利益を表示しているため、最近主流となっているキャッシュフロー経営で重視されている指標です。ワールドコムのような通信会社においては、ケーブル敷設費用等の設備投資額が巨額になるためEBITDAのような指標にアナリスト達は注目していました。また、EBITDAは金利支払い前の利益を表示しているため、有利子負債の返済可能性を表す指標としても用いられていました。

 この歪められた数値を鵜呑みにしていたかどうかわかりませんが、日本の金融機関も1,000億円以上を貸し込んでいたようです。ワ−ルドコムの負債総額は3兆4千億円にも上り、もし破綻すればエンロン以上の影響は必至です。株価も僅か1週間で100分の1の6セントまで下落し、まさに紙切れ同然です。おそらくこのまま倒産状態を迎えるでしょうが、そうなれば日本の金融機関も直接的な融資以上の損害を被ることになりそうです。

 これまでもエンロンに引き続いてグローバル・クロッシング、クエスト・コミュニケーションズといった企業の売上水増し疑惑が出ていましたが、ワールドコムが決定的でした。また、ゼロックスも過去5年間に渡る7,700億円の粉飾決算疑惑が囁かれています。(ゼロックスの監査法人は私の所属するKPMGでしたが)と言っている間に米国の製薬大手メルクの、3年間で 1兆5千億円の粉飾がウォールストリートジャーナルで報道されました。米国企業の決算に対する不信がピークに達しています。

 幸いなことに(?)エンロンもワールドコムも監査法人はアンダーセンでしたから、現在疑いの目を向けられているのは専らアンダーセンの監査先です。また今後心配されるのは、これまでアンダーセンが監査を担当していた企業が、他の監査法人の監査を受けて新たな不正が発覚するのではないかという点です。これまでのしがらみがありませんから、新しい監査法人は厳しい監査を実施すると思いますので、通常の監査以上に監査レベルは厳しくなり、新たな不正が発見される可能性は大きいと思います。

 先に挙げたグローバル・クロッシングは倒産しましたし、クエスト・コミュニケーションズは従業員が自宅待機状態です。フェアを売り物にするアメリカ経済だけに、これを裏切った場合のダメージは底なしで、ワールドコムの将来については悲観的な見方が圧倒的です。 今後7月10日のヤフーを筆頭に、11日のGE、16日のインテル、モトローラ、17日のAOLタイムワーナー、18日のマイクロソフト、と米国主要企業の第2四半期の決算発表が続きます。米国経済頼みの日本経済の枠組みについて見直しを考えていかないと、大変なことになってしまいます。

 なお、日本でも朝日監査法人が住専の会計監査に関して元株主から訴えられていた訴訟で和解し、和解金を支払いました。日本の会計監査市場、監査法人が監査のミスを認めた(朝日監査法人はミスを認めたわけではないと言っていますが、非があるから和解したわけです。)初めてのケースだと思います。提携先のアンダーセンの破綻に続いて朝日監査法人の権威がさらに低下しました。



■ どうなる円相場 ■


 米国経済というよりは米国企業の決算に対する不信と日本の財政に対する不安の綱引きで 為替相場が大きく変動しています。私が円資産からの回避をお話ししたときの為替相場は、1ドル128円ぐらいでしたから、それからもう10円ほど円高になっています。アナリストによっては当面1ドル117円、人によっては1ドル110円を予想する人もいます。ワールドコムショックは予想外でしたが、といって日本の財政が少しでも好転したかと言えば全く変化はありません。相変わらずの財政不安が続いています。但し為替相場は一時の人気投票的なところがあって、根底にある日本経済の不安より、表面化した米国企業に対する不信の方が為替の相場変動に与える影響が大きくなっていると言えます。

 円は駄目、ドルも駄目となると残りは金かユーロということになりますが、金の場合には円相場との関係がありますから、単に金価格だけでは判断出来ません。となると残りはユーロだけということになってしまいます。こうしてみると日本という国は資産防衛が本当にやりにくい国ですね。もう少し国際的な逃避方法の選択肢があると良いのですが。

 しかし為替相場が1ドル120円の時に「1ドル115円まで上昇することは避けたい」と発言する財務大臣にはびっくりです。この不用意な発言で為替相場は一気に120円を割り込みました。先週の日経ビジネスでは会社の経営は30代、40代に任せるべきだとの特集を組みましたが、経済音痴の80才の財務大臣を担がねばならない日本国民は不幸と言わざるを得ません。

 しかし面白いのは、1ヶ月も前は我が国の財政不安ばかり報道されていたのに、一度円高に変わると、それらのニュースは一切影を潜め、円高材料のニュース一色になるのは非常に興味深い現象です。マスコミの故意の誘導とは思いませんが、単に報道のみの情報に頼るのも危険なことです。



■ 孫正義氏の講演 ■


 先週、孫正義社長の講演を聴く機会がありましたのでそのご報告をします。テーマは「ブロードバンド時代のビジョンと戦略」ということで、世界における情報革命の進展についての話から始まりました。世界の情報革命は以下のように進みました。

    1455年 グーテンベルグの印刷機の発明
    1786年 グラハム・ベルの電話機の発明
    1895年 マルコーニの無線機の発明
    1926年 ベアードの動画TVの開発

と続きましたが、現在のブロードバンドがこれに続く「デジタル情報革命」であるとしています。ブロードバンドの普及によって人々は時間、空間を超えた情報交換が可能になります。尤も孫さんは以前、インターネットについても「第2の産業革命」と言い続けていましたから「革命」と言う言葉が好きなのかも知れません。孫さんと言えば「ぶち上げる」と言うイメージが強く、過去にも時代を先取りした大風呂敷な発言で周囲を慌てさせていましたが、今回のYahooADSLについては本気です。既に設備投資額についても800億円に上っています。

 ということで、話の8割はYahooBBについてでした。それも単なるブロードバンドというよりはBBフォンすなわちIP電話の話が中心でした。前にもお話ししましたが、YahooBBのIP電話すなわちBBフォンでは、国内通話は総て3分7.5円、海外例えばNYにかけても3分7.5円で、これは通常の国際電話の1/20です。その他の国々についてはこのような低料金とはいきませんが、それでも通常の国際電話の1/3から1/4の通話料金ですみます。またBBフォン同士ならば通話料は無料です。孫社長の「電話会社、特に長距離通信会社の将来は無い」との発言で会場にどよめきが起こっていましたが、7月7日KDDIが10月からのIP電話への参入を表明しました。料金は全国どこでも3分8.5円と言うことで
BBフォンよりも1円高いのですが、これで通話料の大幅な低下が一気に始まります。次に期待したいのは携帯電話の通話料金の大幅引き下げです。いくら社会現象とは言え、女子高生の毎月の携帯電話通話料金が 数万円にもなるというのは異常です。せいぜい毎月のお小遣いの1/3位にまで引き下げられないと、若年層の消費マーケットの歪みが是正されません。これも孫社長に期待しましょう。

 また苦情が殺到していたYahooBBですが、最近は9営業日で開設が可能になったそうで、インフラ面の整備も進んでいるようです。但し、ADSLについては最近ユーザーからの苦情が増加しています。というのも、近くの電話局までの距離によって通信速度が変わることは前からわかっていたことですが、ユーザーの増加に伴い通信速度が予想外に低下したことが、ユーザーの不満を増大させているようです。ADSLはある意味で光ファイバーまでの通過点のインフラです。ISDNの役目があっという間に終わって陳腐化したのと同様、ADSLも予想外に早くその役目を終えてしまうかも知れません。

 また孫社長はブロードバンド普及率で世界トップの韓国IT事情にも触れ、韓国経済の復活の鍵を
「FDI」にあるとしました。「FDI」とはフォーリン・ダイレクト・インベストメントの略で、すなわち外国投資家の直接投資を意味します。このFDIがここ3年間で過去40年間分と同額行われたそうです。その結果、韓国はIMF管理から3年で経済を立て直したばかりか、世界有数のIT立国になりました。それに対して我が国は相変わらず外資の流入を制限していて、自由な経済活動もままならないという、孫社長の不満の発言でしたが、これは外資への売却を制限されているあおぞら銀行への投資についての皮肉だと思います。

 NTTの反撃にさらされているソフトバンクグループですが、孫正義という人物がいなかったら、これほどブロードバンドによるインターネット接続料金が安くなることもなかったし、今まさに始まった電話料金の大幅引き下げも実現しませんでした。彼がナスダックジャパン構想をぶち上げ、新市場を立ち上げなかったら、昨年公開した169社のうち1/3の会社は公開出来ていなかったでしょう。様々な批判を受けている孫社長ですが、確実に世の中を変えてきたことは間違いありません。彼には何とかこの苦境を打開して、新たな日本経済の枠組み作りに貢献していってもらいたいと思います。

「日本の孫悟空頑張れ!」





■ 変な流行 ■


 最近カメラつきの携帯電話を持っているオバさんが多いことに驚かされます。(自分だって オジさんのくせにという声が聞こえてきそうですが)こういう商品は若い男女専用かと思いましたが、オバさん達が楽しそうにやり取りをしているのを見ると、呆れると言うよりも、「マーケッティングに偏見はタブー」と感じてしまいます。(おぞましい!とも感じますが)消費者は製造者や販売者が予想もしない使い方をするケースがあります。「まさかオバさんが!」とは誰でも思うでしょうが、そこに思わぬヒットのきっかけがあるものです。中年の主婦が藤原紀香のCMを見て「私もあんなことやりたい」と思ったとは考えられませんが、不思議な現象です。超薄型カメラを開発させたシャープと二つ折り携帯電話のヒンジメーカーの業績が向上してきました。超薄型二つ折り携帯電話を発売した松下通信工業も注目されます。携帯電話のコンテンツ提供ビジネスは競争が激化してきましたが、ハード面においてはまだまだ進歩が続いています。携帯電話のインターネット接続人口は日本が世界のトップです。主婦もこれに貢献しているわけです。私の娘も二つ折りの携帯電話以外には興味を示しません。



□■ 夏期休業のお知らせ ■□


大変勝手ながら、当事務所は下記期間夏期休業とさせていただきます。


8月12日(月)〜14日(水)

皆様、どうぞよい夏をお過ごし下さい。








前の月へ    次の月へ