■ 効果のない株式市場対策 ■


 2月の安値に近づいてきた日本の株価ですが、需給的には全く回復は望めません。NY安により各国の機関投資家は米国株の売却に走りましたが、それによって日本株の比率が高まりすぎたため、比率調整のため日本株を売却しています。ここ1ヶ月半の外人の日本株売り越し額は4000億円近くなったようです。生保、損保等の国内投資家も将来の株安による資産の目減りを恐れて、先物売りに走っています。昨年度3兆円以上の株式を売却したと言われる生保だけでもまだ1兆円以上の売却を予定しているようです。金融機関の持ち合い株式売りも一向に止まりません。持ち合い株式は時価総額の約10%と言われていますから、まだ30兆円近い持ち合い株式があると思われます。こうして見ると株式市場の需給関係はこれまでになく悲惨な状況といえます。しかし実はこの様な時が「買い時」と思われます。「先々月は、日本は3年で破綻すると言っていたじゃないか」とのおしかりの声が聞こえてきそうですが、マクロ的にはそうであっても、ミクロ的には買い出勤してみたい状況です。

 それはさておき、政府も株価の下落には相当気を遣っているようで、この度「金融市場改革案」が公表されました。内容を見てびっくりです。証券会社の資本金を引き下げることによって、証券会社参入の門戸を広くすることについては理解できないことはありませんが、本当にびっくりしたのは、税理士、公認会計士の「販売代理店制度」です。これは税理士や公認会計士、ファイナンシャルプランナーが証券会社の販売代理店や代理人として営業活動できる仕組みですが、あまりに唐突な提案でした。私たち税理士、公認会計士は資産運用のアドバイスをすることはありますが、自ら販売業者になるという感覚は全く持っていません。私たちはアドバイスすることで報酬を頂くことはあっても、商品の取扱手数料を得ようとは考えていません。販売業者でないからこそ、公正なアドバイスが出来るのではないでしょうか。販売業者になった場合には、取引をしてもらわなくては商売になりませんが、アドバイスには「何もしない」というアドバイスもあり得るはずで、このアドバイスは販売業者には受け入れがたいアドバイスだと思います。株式を魅力ある商品にしていく努力が必要なのに、つまらない販売チャネルを増やす対策ばかりで、抜本的な対策は全く打たれていません。早速マネックスの松本 大社長がメッセージを発信しました。『車が売れないからといって販売店を増やしても販売台数が増えるわけがない。』

 政府もこんなつまらない対策ばかり考えていないで、なぜ個人金融資産が株式市場に向かわないのか、国民の立場で考える必要があると思います。というとすぐ「検討委員会」等の諮問機関を作って検討させようとしますが、ここに問題があります。政治家が一人の国民の視点で物事を考えられず、総ての役所が役人個人としての考えではなく、組織のための案しか考えないからこのような案しか出てこないのだと思います。政治家が国民の一人としての視点を持たない限り、本当に国民のためになる施策が打たれることはないでしょう。  そんなことをいっているうちに新たな心配の種が出てきました。中南米事情です。アルゼンチンばかりかウルグァイそしてブラジルにまで飛び火しそうな気配です。しばらく目が離せません。



■ ベンチャーは人に手助けしてもらうものではありません ■


 各地でベンチャー支援ブームです。ベンチャー支援のため、各自治体がいろいろなメニューの準備を始めています。私にはこれらの動きが全く理解出来ません。ベンチャーというのは自分たちの力でビジネスすることがベンチャーであり、そこに何らかの独創性が付随しているものだと思います。ビジネスの形態にしてもこれまでにない新規性が要求され、たとえばコンビニチェーンだとか居酒屋チェーンを若者が起業しても、これはベンチャー企業とは呼ばないのではないでしょうか?またコンピュータソフトの開発業というとITの目玉のように聞こえますが、これもビジネスモデルからいえばベンチャー企業とは言えないと思います。需要に対して発生したビジネスであって、新規の需要を掘り起こすような新規性はありません。どうも世の中は「中小成長企業」を「ベンチャー企業」と呼んでいるようですが、これは間違いです。

 また、ベンチャー企業は基本的に独立独歩で進んで行くべきで、世の中で最も保守的な組織である官公庁が「ベンチャー」の支援など出来るわけがありませんし、役人に「ベンチャー」が何を必要としているかわかるはずもありません。昔、ドムスシリーズという超高級マンションを次々に販売した大建ドムスという会社の社長が「三井不動産や三菱地所のサラリーマンに金持ちの好みそうなマンションが造れるわけがない。彼らは金持ちでないから金持ちの気持ちがわからない。私は金持ちだから、金持ちが何を望んでいるかわかる。」と言っていたのを思い出します。役所に支援された「ベンチャー」の成功は望めません。ベンチャーとはある意味で「変革」ですが、役人は「現状維持」「既得権確保」です。

 今年の9月に初の大学初ゲノムベンチャーが公開する予定で、かなりの話題になることは間違いありませんが、これは必ずしも大学の先生に経営能力があるという意味ではありません。国では大学初ベンチャー1000社構想を2001年の5月にぶち上げましたが、数さえ増やせば何とかなるという役人の考えそうなことです。ベンチャー企業設立目標を設定すること自体が勘違いであることに彼らは気がついていません。そんな、お声掛かりで出来たベンチャーが公開など出来るわけがありません。



■ ビジネスに経験は必要か ■


 板倉雄一郎という人をご存じでしょうか。数年前に無料インターネットをぶち上げ、結局30数億円の負債を抱えて倒産したハイパーネットの元社長です。その後「社長失格」というベストセラーを出版して、講演活動に精を出していましたが、最近「失敗から学べ!」と言う本を出しました。前著もそうでしたが結局、失敗の原因・反省をどう生かしていくか、またその経験を今後のビジネスの糧にしていくかという内容ですが、その中に興味深い下りがあります。『米国では「失敗したことのない人」を「何もやったことのない人」とみなす。「失敗したことのある人」を「経験を積んだ人」とみなす』『生まれたばかりの赤ん坊は転ばない。なぜなら歩けないから。1才の赤ん坊は転ぶ。なぜならば歩き始めているから。と、考えればわかる通り、転ぶ(=失敗する)ことなく歩く(=成功する)ことはあり得ないのだ』と失敗体験の大切さを強調しています。

   一方7/1日号の日経ビジネスの「40台が社長の限界」と言う特集が話題になっています。その中にはこのような下りがあります。『政治を含めて日本全体が変化を求められている時代のリーダーには、過去の経験と知恵より、変化と情熱とエネルギーが求められる』

 変革の時代には過去の経験は役に立ちません。失敗体験があるよりも未経験の方が成功の可能性が高いと思います。従って、前述の米国ベンチャーキャピタル流の「経験に投資する」という考え方には全く賛成出来ません。そんなことをいっていれば、総ての失敗を体験した人間でなければ安心して経営を任せられないということになってしまいます。経験よりは情熱を必要とする時代です。

 40代の社長を指名した任天堂や30代の社長を指名したユニクロ(ファーストリテイリング)や
シートゥーネットワークの今後が注目されますが、高齢の山内社長と違って、40代で会長に退いた
ユニクロの柳井氏とシートゥーの稲井田氏の独創性に注目が集まっています。30代の 一部上場社長のお手並み拝見です。



■ 路線価発表が早まった理由 ■


 今年は昨年より2週間以上早く本年の路線価(相続税評価額)が発表になりました。例年ですとお盆明けに発表になっていましたが、今年は8月2日の発表です。

 発表が早まったのは「お盆までに発表する」という方針が決まったからと言われています。と言うのも、世の中ではお盆に帰省したときに相続、特に遺産分割の話をすることが多いようで、その時に相続税評価額が出ていないと相続税の計算も出来ず、従って相続に関する話し合いも出来ないということのようです。ずいぶん世の中の動きに合わせたしゃれた配慮ですが、相続税の計算をする税理士は大変です。路線価が発表になって僅か数日で税額の計算をしておかなくてはなりません。土地評価のフォーマットを作成しておいて、評価額だけを入力すれば即座に税額がはじき出せる準備をしておかなくてはなりません。といっても今年の春先ぐらいまでに亡くなった方ならばある程度の準備も進んでいるでしょうが、最近亡くなった方の相続税の申告書はそう簡単には出来上がりません。時ならぬ業務に忙殺されている税理士さんも多いのではないでしょうか。

 また不動産鑑定評価の拠り所となる「不動産鑑定評価基準」が来年1月1日から改正されます。これまで不動産鑑定評価においては収益性をあまり重視していませんでした。特に相続税申告のための「時価」として収益還元法を全く取り入れることが出来ませんでした。しかし最近になって、不動産証券化等の不動産の収益性を考慮したビジネスが続々と展開されることになってきて、収益性を重視した評価方法の充実が要求されるようになりました。今後はこれまで重視されていた取引事例法に対し、収益性を重視した評価方法が積極的に取り入れられることにより、似たような土地であっても利便性、建築規制等によって大きく評価額が変わることになりそうです。来年の路線価には新しい評価方法が適用されることになるので注目です。

 ところで平成14年度の路線価は10年連続で下落となりました。下げ幅も3年ぶりに拡大したとの報道ですが、私たち都心の動きを見ている人間の感覚とはずいぶんズレがあります。丸ノ内や銀座、青山の目抜き通りの地価はとっくに下げ止まっているどころか売り物が全く無い状況です。高収益が見込める土地には外資を始め投資家が殺到しています。

 路線価よりも実際の土地価格の方が先ほどの収益還元格差がますます大きく反映されています。
今後の不動産投資では事業的収益還元価値を考えた投資が必要です。利回り10%以上の アパートやマンションの売り物が多数見受けられますが、金利の100倍の利回り状態がいつまでも続くとは思われません。最終的には金利に近い形で収斂していくと思われます。また金利も正常なレートに収斂していくことでしょう。「待つも相場」です。



□■ 夏期休業のお知らせ ■□


大変勝手ながら、当事務所は下記期間夏期休業とさせていただきます。


8月12日(月)〜14日(水)

皆様、どうぞよい夏をお過ごし下さい。








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