■ 株価下落と証券税制 ■


 今月になって申し込みが始まった「特定口座」を中核とする新証券税制ですが、始まったばかりのこの制度について、早くも財務省が見直しの動きを見せています。しかも財務省に指示したのが何と塩川財務大臣。あの複雑怪奇な証券税制をぶち上げた張本人です。株価下落を恐れて次々に思いつきで口にしたことを事務方に指示して法律にまでしてしまった、専門家でさえ理解できない証券税制を生み出した元凶です。役所の発想で編み出された複雑怪奇な制度は総て問題先送りの対策でしかありません。しかも総ての対策が後に逆効果を生み出し、結局「何もしない方が良かった」と言われるに違いない対策です。

  例1.「空売り規制」
      信用取引は行き過ぎた株価を抑制する効果があります。売りを規制すれ
      ば一時的に供給は止まりますが、後日反対売買による「買い戻し」という
      需要も無くしてしまいます。

  例2.時限的な譲渡益課税の軽減
      ある一定時点までの売却益課税を軽減すれば、期限間近には売りが殺
      到して株価は逆に暴落します。

 総て「今さえ良ければ」「とりあえずしのげ」の先送り発想です。と言っていたらまたもやPKO、すなわち公的資金による株式買い上げの話が出てきました。具体的には財投資金でETF(株価指数連動上場投信、ETCではありません)買い上げ策です。過去のPKOがことごとく失敗に終わっているのに、また新たなPKOを行おうとしています。日本の株価の下落は日本経済の構造的な問題の象徴であり、一時の需給関係の悪化によるものだけではありません。本当はそのことを皆わかっているはずなのに、恐ろしくてそこには手をつけずに、小手先の対応で済ませようとします。本当に懲りない面々です。

 最大の株価対策は「源泉分離課税の廃止期限延長」です。源泉分離課税は今年一杯で廃止予定ですが、これが相場の足を引っ張っていることは証券界の人間はみんなわかっています。 「申告不要」これほど魅力的な言葉はありません。たとえみなし譲渡益課税が現在より強化されても人々は「申告不要」を選びます。資金の出所を追求されることを好まない人もいれば、面倒くさがりの人もいるでしょう。売買記録を総て保管し申告資料として全投資家が税務署に提出することなど非現実的で想像も出来ません。たとえ「特定口座」の使い勝手がいかに良くなろうとも人々は「簡便」を望みます。

 そして私は「源泉分離課税」が存続すると予想しています。これを上回る効果のある株価対策は考えられません。ということで、普通の税理士であれば、この時期に皆さんに対して新証券税制の詳しい説明をしているところでしょうが、私は12月まで説明を控えさせて頂きます。皆さんも「特定口座」への対処はしばらく待たれた方が良いのではないでしょうか?「特定口座」に入庫した株式は強制的に昨年の10月1日の株価の80%が取得価格になってしまいますので、もっと高い価格で取得した方は「特定口座」を利用することにより逆に不利になることを知っておく必要があります。従って、幾らで取得したかわからない株をお持ちの方はやはり12月までに一旦売却するしかないのではないでしょうか。

 もし本当に新証券税制が施行された場合には、有価証券売買に関する確定申告はご自分でやる覚悟が必要です。売買回数の多い方の申告を会計事務所が行うことは不可能です。年末までにはまたお知らせしますが、ご自分で申告が出来るものかどうかよく考えてみて下さい。となるとやはり株式投資人口は減少しますし、年末までに売却を急ぐ方も多くなるでしょうから、このままでは必ず株価は下落してしまうでしょう。



■ 外人不信と企業不信 ■


<外人不信>
NASDAQの日本撤退でまた外人不信が募ってしまいました。仮にも新たな証券市場を立ち上げたのですから、投資家のためにもまた、その市場に上場した企業のためにも10年や20年は腰を据えて取り組むのは当たり前のことですが、どうも青い目の人々にはそれは通じないようです。

 日本側でも大阪以外の取引所と交渉を重ね、合意寸前の所まで行っていたようですが、米国側は全くこれを無視、一方的に契約を解消しました。もうすぐ100社になるナスダックジャパン上場企業はまさに見殺しです。最後の最後まで市場の存続に奔走したナスダックジャパンの社員を見捨てて、前線に兵隊を残したまま大本営は撤退してしまいました。わずか数十億円の赤字を理由の撤退はまったく解せません。しかも撤退の記者会見においても「残念無念」を繰り返すだけで、明確な説明がなされませんでした。もっとも、もし追求されれば、ずさんな対日戦略と、失敗に終わったロンドン証券取引所との合併失敗に触れねばならず、極力それを避けたかったようです。そして米国においては今回の撤退の責任は大阪証券取引所を始めとする日本側に押しつけているようです。これだけ日本市場を軽く見ているNASDAQですから、将来ナスダックジャパン上場企業が米国ナスダックに上場しようとしたとしても、どれだけ便宜が図られたか、はなはだ疑問です。しかし本当に無責任な連中です。またこれに対し、きちんと申し入れが出来ない日本政府、財務省にも問題があります。1兆円以上にも上る時価総額の市場が、いきなりはしごを外されてしまったわけですから、もう少し抗議をしてもよかったのではないでしょうか。これでは日本は舐められっぱなしです。

 もてはやされている中国ビジネスにしても、広東の例もあるように、公的機関といえども深く信用するわけには行かないことを肝に銘じておく必要が有ると思います。日本は本当に良い国だと思います。

<新興市場の企業不信>
元はと言えばソフトバンクの孫社長とNASDAQのフランク・ザーブ前会長が意気投合して開設されたナスダックジャパン市場ですが、日本のIPOの流れを大きく変えたという意味では評価できます。ナスダックジャパン市場の開設によって、多くの若手経営者が公開の可能性を身近に感じられるようになり、現に100社を超える会社が上場されることになりました。そのうち半数以上、特にグロース市場銘柄の大部分はこの市場が開設されていなければ公開出来ていない企業です。その中には公開によって飛躍のチャンスを掴み、次なる展開に向かっている企業も出てきています。しかし残念なことに、多くの企業が事業計画数値を全く達成できず、株価的にはボロボロの状態です。会社が発表していた業績予想とその後の実績数値を比較されてみると、その乖離の大きさに驚かされます。

 「よくもまあこれだけの大嘘をついてくれたな」という感じです。もちろん全員が悪意とは思えませんが、確固たる根拠も無しに高成長の事業計画をぶち上げていた経営者もいたと思います。これに関してはその経営者の資質、事業計画の確実性を見抜けず公開させてしまった幹事証券会社の責任が大です。米国では会計不信の嵐が吹き荒れていますが、日本においてもたとえ悪意は無かったにしても、急激な業績の下方修正を行う企業が続々出てきています。何十億円もの黒字予想が突然赤字の予想に変更されては投資家も嫌気がさしてしまいます。本当にその会社の実体を知っている投資家しか株を買えなくなってしまいます。これではインサイダー取引しか成立しなくなってしまいます。急激な業績の下方修正発表が行われる直前に大量の売り物が出ていることも多く、日本の証券市場の明瞭性もまだまだです。



■ 歴史的株価 ■


 9月6日の金曜日、歴史的株価が記録されました。ソフトバンク株と光通信株の株価の逆転です。相変わらず孫バッシングが続いていますが、ソフトバンク株も下げ止まりません。2000年2月に高値19万8千円をつけた後、3分割が行われましたが、6日の安値は1095円、それに対してやはり同じ2000年の2月に高値24万5千円をつけた光通信株は7月の末に895円、高値からの下落率99.64%という歴史的暴落をしました。その光通信の6日の高値が1100円、一時的とはいえ、またソフトバンクは3分割しているとはいえ、大逆転です。「ブロードバンド事業の赤字が止まらないソフトバンクに対して、リストラを進め、携帯電話やコピー事業に専念して業績を回復しつつある光通信」と言ってしまえば簡単ですが、それだけの株価の動きとは思えません。もちろんネットバブル当時、単なる携帯電話販売業兼ベンチャー キャピタル業の光通信をネット企業と持ち上げた証券会社の責任は大ですが、逆に言えば光通信はネットバブルの崩壊による投資の償却が進めば、それほど赤字が出る本業ではありません。株価は会社の将来を表しています。イメージアップのチャンスを失っている現在の孫さんと、もう イメージを気にする必要が無くなった重田社長。二人とも大元気のようですが、株価が二人の未来を表しているのかも知れません。つまり「リアルとバーチャルの逆転現象」です。

 株価については日経平均が昭和58年代の水準にまで暴落しています。もっと遡れば、昭和 48年1月の高値が5千円台、それから僅か6割高の水準でしかありません。昭和49年10月の第1次オイルショック当時の最安値3300円に対しても2.5倍です。失われた10年どころか失われた30年です。日立や富士通の現在の株価は昭和60年当時と同じ株価です。つまり17年間保有しても何の利益も生まなかったということです。そして時代の流れはますます早くなっています。現代では「長期投資」という言葉は死語になっています。日経平均や東証株価指数のETFは現在非常に面白い投資対象だと思いますが、これとて日経平均2万円まで後生大事に持ち続ける商品ではありません。上げれば売る、下げれば買うといった適度にタイミングを捉えた売買が必要です。







≪ 最近驚いたこと ≫   宇多田ヒカルの結婚には驚きませんでしたが、宇多田ヒカルのHPのアクセス数にはびっくりしました。9月6日は3500万アクセス、7日は2100万アクセス、8日は1200万アクセス、日本のインターネット人口5000万人からするともの凄いアクセス数です。

≪ 平和な気持ちになれる映画のお勧め ≫  最近テレビでも放映されましたが、実話の県立川越高校水泳部男子生徒のシンクロ演技を映画化した「ウォーターボーイズ」がお勧めです。私の家内は毎日1回シンクロシーンをDVDで再生しています。笑えますよ。



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