

■ 名宰相、名頭取の不在 ■
竹中大臣の評価が真っ二つです。「売国奴」「生兵法」「即時退陣」の声があるかと思えば、竹中大臣を強く支持し、逆に当初の総合デフレ対策案にストップをかけた与党やメガバンク首脳に対する強い
非難も起きています。
今月号の月刊「現代」では作家の高杉良氏が「竹中大臣を即刻クビにしろ」と息巻いています。高杉氏の論理は明快です。「不良債権はデフレの原因ではなく結果である。多額の公的資金を投入して不良債権処理を進めても、原因を追及し排除しないため、デフレは進み、不良債権はますます増加する。竹中大臣はシンボリックな巨大企業、巨大銀行を破綻に追い込まないと納得しない。しかし竹中大臣の言うように銀行の資産査定を厳格にすれば、今まで以上の「貸し剥がし」が起き、企業破綻が進み、デフレを加速させる。今必要なのはデフレを抑えるため、不動産関連税制や証券税制を見直すとともに、先行減税を実施することだ。」
各方面に配慮したせいか当初のデフレ対策、修正されたデフレ対策と、だんだん複雑な対策になってしまい、素人にはわかりにくい言葉が飛び交っています。特に厳格な税効果会計の適用や、債権のDCF(ディスカウントキャッシュフロー)なる言葉は我々職業会計人の用いる用語であり、政治家の先生たちがこの用語の意味を正確に理解して議論していたかどうかは、はなはだ疑問です。またこれは竹中大臣の側にも反対勢力についても言えることですが、税効果会計やらDCFやら米国会計の手法を導入しながらも、その適用については自分勝手に解釈しており、米国におけるその適用の実態に関しては言及していません。
そもそも税効果会計とは税務会計と企業会計の調整のために行われる会計であって、その中の
繰越欠損金に関する繰延税金資産勘定は極めて例外的な項目です。今回この繰越欠損金に対する繰延税金資産が異常にクローズアップされています。これは税務上の繰越欠損金について、もし将来利益が生じても過去の欠損金と相殺されて税金を払う必要が無いため、この欠損金を将来の税負担を軽減するための一種の財産と考えて、資産計上するものです。この繰延税金資産は自己資本に組み入れることが出来、現在大手銀行ではこの自己資本に組み入れられた繰延税金資産が中核自己資本の半分の8兆円にも上っています。特にりそなHDやUFJHDではこの繰延税金資産と注入された公的資金の合計額が中核自己資本の殆どを占めています。
ですから、竹中大臣というよりはKPMGフィナンシャルの木村剛氏が自己資本に参入出来る繰延税金資産の上限の引き下げを求めたわけです。これに対して大手行首脳は「ルールの突然の改訂は許せない」と猛反発したわけですが、そもそも元のルールも突然設けられたものであり、それほど大きな顔をして反対出来るものでもありません。それよりも銀行自身の大甘な利益計画によって将来の税負担の軽減を自己資本として認める方がもっと問題で、もし将来予定している利益が計上されない場合には全くのカラ資本になってしまいます。このようなリスクが予想されるものを資産計上させたことが問題です。我々公認会計士の監査でも繰延税金資産の計上を認めるかどうか判断するためには、会社の事業計画の妥当性を判断しなければならず、これに対する責任を求められることが非常に大きな問題となっています。税効果会計の中で、この点だけが恣意性の介入する点であり、その他の点では
税効果会計が問題視される点はありません。
基本的には目的と手段とプロセスが明確になっていないことが問題です。どの議論を聞いても「鶏と卵とどっちが先か」的な議論が多く、非常にわかりにくくなっています。まず我が国経済にとって、最大の問題は不良債権なのかデフレなのかについての議論を十分行い、それに対する対策の選択肢を並べ、それぞれの長所短所を明確にした上で議論し、合議の上対策を決定するといった、どの企業や組織でも取られるプロセスが無く、利害関係の調整とドラスティックな影響に恐れをなした及び腰の議論に終始しています。
ただ一つ言えることは、経済政策に対する意見がこれほど分かれ、結局誰からも評価されない対策となってしまった以上、その効果は期待出来ず、日本経済が更なる迷走状態に向かっていることです。税効果会計の厳格な適用は「速やかに検討」になってしまいましたし、政府が保有している銀行の優先株の普通株への転換による銀行の国有化についても「経営の大幅な悪化」が条件に加えられたため、結局先送りとなってしまいました。「経営者の退陣」については一瞬のうちに葬り去られてしまいました。
また別の意味で最大の問題点は、「改革、改革」を叫びながら、総合デフレ対策、高速道路問題、民間の郵便事業参入でも肝心な所で小泉総理大臣が全面に立たず、各種の委員会に丸投げをし、役所や反対する議員の矢面に立たせ、結局最終的に骨抜きにされている現状です。総ての反対勢力との戦いは大将が全面に出て行うべきなのに、かけ声ばかりで後方で様子見ばかりしているものですから、反対勢力に手直しばかり行われて骨抜きにされ、結局わかりにくくて珍妙な対策ばかりになってしまいます。大胆な指導力を期待されて登場した小泉政権でしたが、日本再生にはほど遠く、傷口をさらに広げる結果となってしまいました。
我が国産業界にあっては古くは豊田佐吉、戦後では本田宗一郎、井深大等の名経営者を生みましたが、金融界、政界ではこれといった人が見当たりません。今日の政治の混迷、米国ユダヤ資本に
牛耳られている金融界の現状を見てみると、政治、金融に関する名リーダーが生まれなかったことが本当に残念です。
ただ日本人ほど勤勉で、信用出来る国民は世界中にどこにもいません。この最大な経営資源が政治、金融の無策のために垂れ流しされている現状を何とかしたいものです。国民の体力はまだまだ回復可能です。
私の情報源の一人である、松藤民輔氏のコメントです。「たった百年余りの人生、楽しくなくてどうする。お金を持つ事が目的の旅は楽しくない。意識(思い)をどう使うか考えるとおもしろくなる。たった
一度の人生、株価の低迷や不良政治家の貧しい行動に一喜一憂してもはじまらない。今、我々がなすべき事は、自分は確かに幸せ者であるというこの一点を信じ、確認し、それに基づいて生きているだけでいい。」

■ 多少のブームでは消費に影響なし ■
巷では食生活の面で色々なブームが起きています。
デパ地下ブーム、ホテル中食ブーム、創作和食ブーム、ラーメンブーム。
どこのデパート地下食品売場でも必ず1軒や2軒は買い物客の行列が出来ています。雑誌に「デパ地下特集」が組まれるぐらいですから、単なる一過性のブームとは思えません。また街中で行列が出来ていると、殆どラーメン屋の行列です。常に行列が出来ていることで有名な、「じゃんがらラーメン」も公開準備に入ったそうです。
とはいえ、最近気になるのが飲食産業の減益ニュースです。居酒屋「和民」を経営するワタミフ−ド、女性でも入れる定食屋を展開する大戸屋、天ぷらの「てんや」を展開するテン コーポレーション、そしておなじみのスターバックスと相次いで減益のニュースが流れています。普及率と嗜好がからむスターバックスはともかく、ここに上げた3社は庶民の飲食の代表です。特にワタミフードの渡辺美樹社長や
大戸屋の三森久実社長は自ら店を回り店舗をチェックして歩く、まさに現場社長です。マニュアルや
オペレーティングシステム任せではなく、自らが店舗に足を運び、挨拶や清掃にまで目を光らす経営者に統率される店まで収益が減少してきたことは、デフレと言うよりも庶民の懐具合が本当に悪化してきたことを象徴しています。
失業率が5%を超え、今年の自己破産者が20万人を超え、過去最高に迫ろうとしている現状が納得が出来ます。銀座や青山のブランドショップがいかに繁盛しようとも、デパートやスーパーの売上高がいつまでも対前年比割れを続け、ここに挙げたような庶民の飲食業までもが減益傾向になったことは
GDPの半分以上を占める個人消費の冷え込みを象徴しています。本当に不良債権処理よりも景気対策を優先する事態になっています。

■ 迷走する証券税制、もう時間切れ? ■
とうとう自民党が動き始めました。これまで源泉分離課税の廃止については日本証券業協会からも存続の要望が出されていましたが、10月29日、自民党の金融再生特別委員会で源泉分離課税の存続及び銀行保有株の制限見直しを検討することが決まりました。
といっても、この報道の隣の記事は「与党三党の高速道路建設推進議員連盟と全国自治会等は高速道路ネットワーク実現全国大会を開き、高速道建設促進を決議する」とあり、本当に懲りない面々です。
一方金融庁が財務省に低率申告分離課税の要望を出しました。その内容は「2003年度税制改正で、株式譲渡益や配当金、株式投資信託の分配金の課税方法を統一し、今後10年間、一律10%に軽減する」というものです。また株式譲渡損益や配当金等の損益を通算し、5年間の損失繰越を認めるよう提案もしています。申告の煩雑さはあったにしても、これまでの各種提案の中では秀逸です。
但し、人は損失を前提に投資するわけではありません。この案と現行の源泉分離課税を比較して考えた場合、利益が少なければ売買金額の1.05%の課税を受ける源泉分離課税よりも、この一律10%課税の方が得なはずですが、人間は株式投資をする時は大もうけすることしか頭にありませんから、
10%の課税が重く感じてしまうかも知れません。また、これは誰も表だっては言いませんが、
やはり株式市場にはかなり裏金が入り込んでいるのではないでしょうか?その人達からすれば、税率が幾ら低くなろうと株式市場から撤退せざるを得ません。従って、源泉分離課税存続以上の株価対策はやはりありません。
今でもなお、私は個人的には未だに、源泉分離課税の存続を期待していますが、徒に時が経ち、
日経平均が9千円間近になってきて、株価に対する危機感が薄れてくると、時間切れで源泉分離課税廃止ということにもなりかねません。そこで直近で最低限押さえておくべきことについてお話ししておきます。
源泉分離課税が年内いっぱいは利用出来ますが、正確には年内受渡し完了分ということになると、
12月25日が売却最終日となります。但し、12月決算の会社では期末の株主確定のために12月27日が年内最終受渡しとなるため、売却最終期限は1日早い24日となりますので注意が必要です。また新証券税制では本年末までに購入した株式を2005年から2007年までに売却する場合には購入金額1000万円まで非課税となりますが、この本年末までの購入については約定日ベースで判断されるため、12月30日購入分の株式までこの適用があります。

≪ お勧め ≫
11月22日発売予定のDVD「少林サッカー」楽しみです。お勧め!

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