扶助

馬に乗ったらねぇ、自分の思い通りに馬に動いてもらいたいじゃないですか。
その為の扶助の方法を書き連ねます。(^^ゞ


扶助(ふじょ)

扶助とは、脚、手綱、体重(座骨)による馬に対する指示(操作)です。
馬をちゃんと動かすには正確な扶助が必要となります。

扶助には、脚による扶助、手綱による扶助、体重(座骨)による扶助があります。
この扶助について触れていきます。

脚による扶助

基本的な脚扶助の仕方
脚による扶助は「ビギナーの乗馬」の方で「馬を蹴る」と書きましたが、正確には蹴るのではなく踵で圧迫をするという事です。
脚を入れる、脚を使うといった場合、基本的に踵を馬の腹に強く当ててそのまま踵で持ち上げるように上に向かって踵をスライドさせます。

図のような感じで両足で同時に行います。

これが脚扶助の基本的な使い方になります。
脚扶助の効果
脚の扶助は馬に対して後躯の操縦、制御を行います。
脚扶助を使う事によって馬は後躯を踏み込んできて、強い前進気勢を持つ事ができます。
また、脚扶助は前進気勢の維持以外にも支援もしくは前進/横運動の為にも使用されます。
通常は馬の前進気勢の維持の為の扶助を行っていますが、馬を前進させる(例えば、停止から常歩、速歩、駈歩の発進)場合や、歩度を伸ばす場合等に使用します。
また、後躯が横に流れるのを防いだり、後躯を横方向へ押して横運動を行う為にも使用します。
脚扶助は馬の後肢が地面を離れる瞬間に使用すると効果があります。

図のように脚を使って後躯から踏み込ませることで後躯が下がり前躯が自由に回転できるようになる。
車で言う所のFRにすると言う事ですね。
前進気勢の脚扶助
前進気勢の為の脚扶助は腹帯のすぐ後ろに脚がくるようにして、馬の運動のリズムに合わせて常に使用します。
支援もしくは前進/横運動の為の脚扶助
この場合は前進気勢の脚扶助位置より後ろにずらして使用します。
また、これは扶助の強度によって効果を使い分ける事が出来ます。
支援の為の脚扶助は馬の後躯が外側(外方)へずれる(逃れる)のを防ぎます。
例えば、後躯が右へ流れた場合に右側の脚で支援の為の脚扶助を使えば後躯が蹄跡上へ戻って真っ直ぐになります。
内方姿勢と脚扶助
輪乗り運動で内方姿勢を取った場合に馬を屈橈(くっとう)させなければなりませんが、その場合、内方脚は前進気勢の脚扶助、外方脚は支援の為の脚扶助を行い、後躯が輪乗り蹄跡上にきちんとある状態にする必要があります。
前進/横運動の為の脚扶助は支援の為の脚扶助よりも強く使います。
両方の脚が同じ強さで前進扶助を行うと、馬は直線運動のまま歩様(ほよう)や歩度をあげる事が出来ます。
また、外方が内方より強い場合は馬は内方へ横運動します。この際に内方でも前進気勢の為の脚を使用する事で、馬の前進気勢は保たれた状態になります。
全減却/半減却(ぜんげんきゃく/はんげんきゃく)
全減却/半減却は馬の運動を詰めたり歩様を落としたり停止したりする時に使います。
私は、乗馬の指導の際に「停止する時は必ずふくらはぎで馬のお腹を圧迫してください。」と言います。生まれて初めて馬に乗った方にも言ってます。
これは馬を止める時に減却が必要だからです。
半減却の使い方は、運動中に馬のリズムに合わせてふくらはぎから踵に掛けての部分で馬のお腹を圧迫したり緩めたりします。これによって馬は前進気勢が失われずに停止/収縮が出来るようになります。
半減却は運動中に歩度を詰めたり、歩様を駈歩⇒速歩 速歩⇒常歩といった具合にペースを落とす際に使用します。
全減却とは、停止する際に使用する脚で、連続した半減却です。

手綱による扶助

手綱の扶助は手綱への圧力の加減によって行われます。
手綱はハミと接続しており、手綱操作はそのまま馬の口角へダイレクトに伝わりますので、乱暴に手綱を操作すると馬にとってとても痛い事になります。そうなった場合、その馬はヘタをするとハミを受け付けなくなる事がありますので、柔らかく優しく操作する必要があります。
また、手綱は馬を制御する物ですので、手綱による扶助を行う場合は必ず脚と座骨による扶助を同時に行い、前進気勢を保つ必要があります。

手綱による扶助は大きく分けて4つのの扶助に分かれます。
1.制御する手綱
2.ゆずる手綱
3.補助する手綱
4.ゆずらない手綱

制御する手綱
制御する手綱はその時の状況によって扶助の強さはまちまちです。
薬指を軽く動かして軽い圧力で行う操作や手首の動きによる操作、、背筋と腕全体を使って行う操作もあります。
手綱扶助で馬を制御する場合は脚と座骨(体重)の扶助を一緒に行うと歩様の移行、歩様の収縮、停止、後退、前後屈橈(ぜんごくっとう)等の効果があります。
この効果はあくまでも、脚扶助と体重扶助(座骨)を一緒に行った場合です。
もし、手綱だけで扶助を行うとどうなるかと言いますと、馬は前肢でブレーキをかけるのでバランスを崩してしまい、後肢が斜めになったりひどい場合は人馬転(じんばてん:早い話人を乗せたまますっ転ぶこと)してしまいます。
例)停止

@ 前進気勢の脚を使う。
A @の脚によって後躯から踏み込んでくる。
B Aの踏み込みによって頭を前に出そうとする。
C 座骨を入れD背筋で体を起こし、Bで出ようとしている頭を
Eのようにしっかりと捕らえてハミを受けさせながら制御する。
馬が手綱扶助に対して従順に従う為には脚で十分に前進気勢を持たせてハミに乗るような状態にしなければなりません。この事からも手綱扶助を行う際には脚扶助が必要不可欠です。
バランスよく停止する(速度を下げる)為には脚扶助で前進気勢を持たせて馬の後躯が十分に収縮して馬の重心により近い所まで深く踏み込ませて手綱扶助を行います。
この制御する手綱扶助を行う場合、騎手は背筋と騎座に力を入れ(決して力んではいけません。必要な分だけ力を入れるという事です。)馬の上で安定していなければなりません。
この制御する手綱がただ単に手綱を引っ張る事だと勘違いしている場合は即座に修正する必要があると思いますので、一刻も早く脚扶助と共に使うようにしてください。
また、手綱だけを引っ張って馬を止めようとすると、馬がハミに対して反抗して逆に引っ張り返してきて突っかかっていく場合もあります。こうなると馬のほうが冷静さを無くしてしまい、暴走する恐れもあります。
ゆずる手綱
この扶助は手首の力を抜いて手綱を少し譲ったり場合によっては腕を伸ばして拳を前に出してしまう事もあります。
ゆずる操作を大雑把に行うと手綱が弛んでしまって馬とのコンタクトが失われてしまう事があるので慎重に行う必要があります。
運動中に馬がハミを受けている範囲内で少し頭を出そうとしたりした場合に、軽く手綱を譲り馬の運動を邪魔しない為に使います。
この操作を行う事で馬の頸が伸びてきて馬の運動全体が伸び伸びとメリハリのある綺麗な運動になります。
普段、運動中はこのゆずる操作とゆずらない操作を継続的に行って馬とのコンタクトを取りつづけるようにします。
もちろん、この扶助も脚扶助によって前進気勢が与えられた馬で初めて可能になる扶助です。
例)歩度を伸ばす

@ 支援の脚を使う。
A @の扶助によって後躯からの踏み込みが強くなり歩度が増大する。
B Aの踏み込みで頭が前へ出る。
C Bの動きを邪魔しないようにまた、ハミ受けを外さないように手綱をゆずる。
補助する手綱
補助の為に行う手綱操作は馬が旋回や回転を行う時に外方の手綱によって行われます。
馬を旋回させる際に、外方脚で支援の為の脚扶助を行い、内方脚は前進気勢の脚扶助を行い、内方に体重をかけて内方の手綱で制御する手綱扶助を使うと同時に、外方手綱で補助する手綱扶助を使います。
具体的には、外方手綱をしっかりと張って軽く内方に向かって押すような感じになります。
この時に、外方の拳は決して馬の背峰を越えてはいけません。
また、補助する手綱扶助を使う場合は内方手綱との強さのバランスが非常に重要になってきます。もし、外方の補助が強すぎると馬は旋回する時に旋回方向にきちっと馬体が屈曲しなくなったり外方を向いてしまったりしますし、補助が弱かったり使わなかったりすると外方のコンタクトが外れて馬が肩から外へ逃げてしまい、きちっと旋回が出来なくなります。
例)右旋回

@内方脚で前進気勢、外方脚で横運動の脚を使い、後躯を屈橈させる。
A内方手綱は制御を行い、馬を進行方向へ向かせる
B外方手綱は補助の手綱扶助を行い、馬の肩が外方へ流れたり逃げたりしないようにする。
ゆずらない手綱
ゆずらない手綱扶助とは、まず馬に十分な前進気勢を持たせる事から始まります。
前進気勢の脚扶助、場合によっては支援の為の脚扶助と座骨による推進を馬に与えると馬は後躯から力強く踏み込んでその力をハミに伝えてきます。
そうした時に、手綱をゆずらないで騎手が拳と背筋でしっかりと受け止めます。
この時に馬が突っ張ってきたりした場合は、強引に手綱を持たず薬指か場合によっては手首を柔らかく使ってゆずる手綱扶助とゆずらない手綱扶助を馬の運動リズムに合わせて交互に使用します。そして、馬の口にハミが優しく作用して馬が手綱をゆずってきたらそこで騎手は手綱をしっかり持ってゆずらない扶助に移行して馬とコンタクトを取りつづけます。
ゆずらない手綱扶助を行っている時でも騎手は中指、薬指の力は抜き馬の口に対してハミが優しく作用しつづけるように力加減を行います。
例)前進

@ 前進気勢の脚扶助を行う。
A @によって後躯から踏み込んでくる。
B Aの踏み込みによって頭を前に出そうとする。
C Bを手綱で受け止める。

手綱扶助の注意点
手綱はハミと繋がっておりハミは馬の口に入っています。なので、手綱を乱暴に扱うと馬の虐待になり馬がハミを嫌がるようになってしまう事もあります。
手綱を使う時はあくまでも優しく、メリハリのある扶助を行わなければいけません。

また、手綱扶助を行う時に手綱の方にばかり意識が行ってしまい、脚や座骨による推進が無くなるケースもよく見受けられますので脚や座骨でしっかりと推進してから手綱を使うようにしましょう。
手綱だけ使ってしまった場合は馬に対して扶助として作用はしませんので、手綱操作がいくら正確でも馬は自分の思うように動いてはくれません。


体重(座骨)による扶助

体重による扶助と言うのは騎手は座骨を介して馬に自分の体重を伝えて推進や旋回扶助を行う物です。
これは、見た目には目立たない扶助ですが乗馬の扶助の中で一番大切な扶助です。
脚扶助や手綱扶助もこの体重による座骨扶助があるから巧くいくのです。

座骨は骨盤にあるホネです。
具体的には図を参照していただければお分かりになるかと思います。(^^ゞ
ザ・KOTSUBAN



座骨の使い方は大きく分けて下記の方法があります。
1.両方の座骨に均等に体重を乗せる
2.片方の座骨に体重を乗せる

両方の座骨に均等に体重を乗せる
自分の座骨に体重を掛けてそれを圧力として馬に伝える為にはまず、騎手の骨盤が起きている事が大切です。馬には腰を掛けるのではなく、跨るのです。その事をまず頭に入れないと座骨扶助はできません。
騎手は背筋を伸ばし少し後ろに反るくらいにして騎座を閉めて真っ直ぐに体重を真下ヘ掛けると座骨へ体重が乗って馬に圧力が伝わります。背筋を更に強くして背筋を伸ばすと馬が収縮してきます。
また、少し背筋が丸みを帯びて気持前方へ向かって座骨が入ると推進の補助になります。
この推進の補助の座骨扶助と脚扶助をあわせることでより力強い前進気勢が得られます。
 
普段は真っ直ぐ乗る  前進気勢を持たす
片方の座骨に体重を乗せる
乗馬の運動の大部分は馬場内で行われますね。
大抵の馬場は長方形でその中をぐるぐる走ったり歩いたり、あとは図形運動を行います。
ということは旋回/回転運動を行うわけです。
馬を旋回させたり回転させる時に重要なのが、騎手の重心移動です。
騎手が旋回方向へ重心移動をさせる事で馬は旋回が出来るようになります。
この旋回で勘違いされがちなのが、旋回したい方の手綱を引っ張ると馬は旋回すると思われがちですがそれは大きなマチガイです。必ず重心移動を行ってその上で舵を切るような感じで馬を進行方向(旋回方向)に向けます。
その重心移動を行う時は座骨扶助と脚扶助で前進気勢を持たせなければならないので、重心を移動しつつ座骨を入れます。
それが、片方の座骨に体重を乗せる乗り方です。
これは直線運動でも馬に内方姿勢を取らせるときには必ず行います。
この扶助を行う際は騎手は右から左、左から右へと重心を移すわけですが、馬に分かるようにはっきりと行わなければなりません。
そうやって、重心を移動して旋回方向の座骨に体重を乗せる事で馬は正しく旋回が出来るようになります。
内方へ重心移動して内方座骨を使おうとした時にありがちなのは、前(後ろ)から見たときに腰が曲がってしまう事があります。
腰から上だけを内方へくにゃっと曲げている乗りかたをたまに見かける事がありますが、コレでは重心がちゃんと移動されませんし、座骨も入りませんので体全体は真っ直ぐにする事を常に頭に入れておきましょう。

肩、腰、脚は全て平行で旋回方向(内方)の座骨に圧力をかける。



扶助の協調

今まで、各扶助の単独の話をしてきましたが、これらの扶助は全て同時に使います。
脚、座骨、拳の扶助がバランスよく馬に作用しなければちゃんとした運動はできません。
多分、これが一番難しいかと思いますが、全ての動作は脚、座骨、拳のバランスにかかってきます。
そして、扶助をバランスよく正しいタイミングで使えるか否かは騎手がリラックスしているかどうかにかかってまいります。
騎手が緊張して体がガチガチになっていたら正しい扶助は望めません。
騎手はあくまでもリラックスして、余分な力を抜いて馬の反撞に付いていって精神的にも余裕を持つ事が大切です。そして、騎手が柔らかくリラックスしていれば馬の動きも柔らかくなってきます。馬も背骨をはじめとする各関節や筋肉が柔らかくなっていないと騎手の扶助を正しく受けられません。
各扶助をバランスよく、そして正確に協調させる事で人馬一体となった美しいシルエットを作る事が出来ます。


副扶助

今までは脚、座骨、拳といった主扶助の話をしてきました。
ここでは、騎手が行う扶助をより正確に馬に伝える為に扶助をサポートする副扶助の話をします。
副扶助は鞭や拍車といった道具もありますが、騎手の声や舌鼓(ぜっこ)も大事な副扶助です。

鞭や拍車は馬の前進気勢を高めるために使用します。(但し、時には懲戒の為に使う事もあります)
また、拍車は騎手が脚扶助を完全に出来るようなってから使うべきです。
早すぎる拍車の使用は上達の妨げにもなりますし、馬を必要以上に傷める原因にもなります。
拍車をつけた場合でも脚の位置は拍車無しの場合と同じ位置におき、拍車がついた分だけ踵の圧迫に対して馬が敏感になりますので、十分に慎重に行う必要があります。
拍車の枝の長さは2cmくらいの物から4cmオーバーの長い物までありますが、殆どの競技会では3.5cmまでと制限が設けられています。

拍車の装着図
また、拍車の先端は通常は軽く丸みを帯びていますが、球をつけたものや切り落としになっている物、また輪拍(りんぱく)と言って枝の先端に回転するローラーがついている物もあります。
西部劇ではよくギザギザの付いた輪拍をつけているヒトがいますが、ブリティッシュ乗馬では殆ど使いません。

先端が球形になっている物は馬への当たりが柔らかく、あまり痛くないので、使い始めの頃の拍車の練習に向いています。


輪拍は相当強い拍車扶助がないと動かない(動かせない)馬に騎乗する際に使用します。


拍車の使用はそれぞれのクラブの指導員の指示に従って安全に使用してください。

通常の拍車

先端が球になっているもの

輪拍

最初のうち、主に使用されるのは鞭ではないでしょうか。鞭の中にも種類があって乗馬用では長さが長くて(80cm〜120cmくらい)しなやかな長鞭(ちょうべん)と、短め(50cm〜70cmくらい)であまり弾力の無い短鞭(たんべん)があります。
初心者のうちは短鞭を使用する事が多いかと思います。
また、短鞭の主な使用用途は障害馬術になります。
短鞭の持ち方は内方の拳で手綱と一緒に持ちます。鞭の先端は通常自分の腿に鞭を当てるような感じで後ろに向けておき、必要に応じて馬の肩の方へ手首を回して持ってきます。

短鞭を使う場合、馬の肩を叩きます。そうすると馬の前進気勢が増します。
また、障害飛越では踏み切りの直前で使用します。
長鞭は馬場馬術で使用されることが多い鞭です。
こちらも自分の腿に鞭を当て、鞭の先端は馬の腰のほうに向けます。
使用するときは鞭の方向はそのままで、軽く自分の腿を叩くようにして使用すると、鞭は腿からしなって先端が馬の腰に軽く当たります。
これによって後躯の踏み込みが深くなってきます。

鞭を使用する場合は必ず、脚扶助と一緒に行ってください。


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