大地の歌




私は風になるの。
自由に空を駆けて、大地を抱きしめるの。
 
朝には喜びの歌を。夜には子守歌を。
皆に歌ってあげるの。

それってとても素敵な事だから。
・・・きっと幸せすぎて、泣いてしまうね・・・。

 「予定通りですね」
 操縦席の男が、フロントから目を離さずに言う。
 ツォンはそれにうなずいた。
「そうだな」
 キーストーンは彼の手にある。
 ツォンの脳裏に、キーストーンを手に入れた時に見たクラウドたち、正確にはエアリスの姿が浮かんだ。
「・・・・・・」
「ツォン様?」
「・・・・・・」
 ツォンは操縦席の後部シートに片手をかけた。
「・・・・・・戻ってくれ」
「え?」
「私用を思い出した」
「は?」
 ゴールドソーサーでの用事とはなんだろう、と思う。まさか遊ぶというのは考えられない。
 だが他の人間ならともかく、ツォンが用事があると言うのだ。
 何か意味のあることに決まっている。
 それに、任務は成功したのだし、まだゴールドソーサーを出て間もない。
「頼めるか」
「あ、はい。もちろんです」
 ヘリが旋回を始める。
 イリーナがツォンを見た。
「私用って、なんですか?」
「イリーナ」
 ツォンはそれには答えず、キーストーンを彼女に渡した。
「お前が持っていろ。・・・大丈夫だな?」
「はい! おまかせ下さい」
 イリーナはギュッとキーストーンを握る。
 ツォンはそれに頷くと、ハッチを開いた。
 ヘリはゴールドソーサーのポートへ、ゆっくり降り立つ。
 ツォンは操縦席を振り返った。
「25:05にここで」
「わかりました。お気をつけて」
「ありがとう」
 ツォンはそして、ヘリを後にした。







 ケット・シーを見送った後、クラウドは地を蹴った。
「だいじょぶよ」
 いつもは心を落ち着かせてくれるそのエアリスの言葉に、なぜか苛立った。
「何が大丈夫だ!」
 キーストーンは奪われ、マリンは敵の手の中。さらにこの先も神羅に自分たちの動きは筒抜けになってしまうのだ。
「クラウド」
 エアリスはそんなクラウドに驚いた様子もなく、穏やかに言う。
「クラウド、私を見て」
「・・・・・・」
 クラウドは顔を上げ、エアリスを見る。
 エアリスがにこり、と笑った。
「だいじょぶ。全部、うまくいく」
「エアリス・・・」
 優しい、だが揺るぎないエアリスの瞳。
「私を、信じて」
 クラウドの心から、焦りや、憤りや・・・何か固いものが溶けてゆく。
 クラウドはほっと息をついた。
 胸に満ちてくる、柔らかい空気。
「・・・そうだな。きっと、大丈夫だ」
「うん」
 エアリスは明るく笑う。
 クラウドはそんなエアリスを眩しげに見た。
 影を消し去る強い光。
 だがそれは決して苦痛なものではなく。
 あたたかい、救いの光だった。
「・・・戻ろうか」
 言って、クラウドは踵を返す。
「・・・・・・だいじょぶ、だから・・・・・・」
 背中に繰り返されたエアリスのその声が、なぜか胸が痛むほど悲しげに感じて、クラウドは振り返った。
 だがそのクラウドの目に映ったのは、変わらず一点の曇りもなく微笑む、明るいエアリスの姿だった。 







 エアリスはぱさり、と髪をおろした。
 ベッドに腰かける。
 着替えようかと服のボタンに手を伸ばした時、軽く扉がノックされた。
 エアリスは立ち上がると、扉を開ける。
 そこにはゴーストを模したメッセンジャーが浮かんでいた。エアリスはホテルのメッセンジャーからメッセージを受け取る。
 扉が閉められた後、エアリスはメッセージを開いた。
 “ホテル前、ターミナルへのゲート近くで待つ”
 誰だろう、と思う。
 クラウドやティファたちではありえない。彼らなら、直接エアリスの部屋に来るはずだった。
 エアリスはためらう。
 誰かに相談するべきだろうか。
 エアリスはしかし、少し迷った後、誰にも告げずにホテルの部屋を出た。
                           

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