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SONIC CHAMBER (線から音へ)

SONIC CHAMBERに至るまで

works01

私は風景を描くのが好きで、学生時代はよく風景画を描いていたのだが、大学時代のあるとき、現実の川や道路であっても、画面の中で川は色と色の境目が造る只の横線でしかなく、道は単なる斜めの線であるという当たり前のことをようやく実感した。それ以来、目に映る光景を作品化するにあたって、構造的な要素を重ねあわせる事を覚えた。すると、作品の中から形態的な必然性があると判断した形を残し、そうでない形を消す作業が容易になった。そうして徐々に具体的な形態から離れて数値の変化を元に平面作品を造るようになった。

最初にある比率の長方形を描く。次に別の比率の長方形を、前に描いた長方形に重ねて描く。いくつかの長方形が重なったところで、それらの造り出す交点のいくつかを選び直線で結ぶ。するとまた別の交点が出来る。ある程度似たような作業を繰り返し、今度はそれぞれの交点を曲線で結ぶ。曲線の曲率は全体のバランスを見ながらその場で決めていく。すると有機的且つ構造性を有する形が表れる。原理的には数多くの曲線を引けるはずだが、バランスの取れた図形を描ける解は1つでは無いにせよ、それほど多くはない。この手順を全てアルゴリズム化することも可能だとは思うが、交点を選び出し、直線や曲線で結ぶことはドローソフト上で行っている場合でもあえて手作業で行う。それにより、自分の体のリズムが構造性を保ったまま作品の中に埋め込まれる。このようにして抽象的な操作のみで様々なバリエーションの作品を作れるようになった。生存難易度や生活条件の極端な格差が未だ現存するにせよ、これだけ技術が発達し、表現活動に従事する人の数が有史以来最大記録を更新しつつあり、表現活動が産業の一部となっている今日、こんなことがどれだけの価値を持つのかという思いにとらわれることもあるし、毎回必ずこの方法を使うわけではないが、私個人にとっては、大切な表現ツールの1つである。

works02

works03

もう15年以上前のことになるが、大学時代1年間だけパリに住んでいたころに地下鉄の駅でアフリカ移民のドラム演奏を録音した。今でも時々聞いている。複雑なリズムが絡み合い、私の体に良く合うようで、大抵の場合気分が良くなる。実験をして確認した訳では無いが、これまで行ってきた作品制作と録音の体験から、目(視覚)と耳(聴覚)という違う構造の感覚器官からでも人は秩序を読み感じ取ることができると確信した。であれば、音と映像のシンクロは表現として効果的に違いないと思い、そこに着目した映像作品(dysrhythmia)を造ってみた。だが、残念ながら技術も未熟な上に音も映像も欲張りすぎて焦点がぼけ、変なミュージックビデオのような一面を持った作品になってしまった。(同時期にハリウッドが似たようなコンセプトのアニメーション映画を発表した。当然完成度とかかっているお金は全然違う。)

works04

この作品を制作した経験および鑑賞者からの指摘から、いくつかの課題や指針が明確になった。
 
・動画の画面構成、音の構成要素については更に不要な部分を削除し、絞り込む方向で­検討する必要がある。
 
・単に映像と音を制作しただけでは鑑賞条件が会場によって大きく影響を受ける。鑑賞者の鑑賞状態
を有る程度保証したうえでそれを含めて作品とすべきである。
 
・音圧や音量についても、作品の展示条件によって聴取の限界値に大きな差が出る。しかし、その点を
重視するあまり可搬性がなく、エネルギー効率を無視した物を作ることも現実的に望ましくない。
 
・律動と画面構成のもたらす効果の探求を優先したい場合は、象徴性や意味性に拘泥しないほうが良い。
限界はあると容易に予想されるが、それでも非日常を含みつつも鑑賞者の属する文化にかかわらず、
人間のもつ基本機能で認識できる作品の制作を継続していきたい。
 
2009年2月