Symphonies and Conductors (No.3)
Arturo Toscanini
トスカニーニほど膨大なレパートリを誇った指揮者は戦前には珍しく、それだけに録音も数多く残されているが、とりあえず4種を選んでみた。やはりベートーヴェンは、一つの典型として今日でも聴かれ継がれるべき演奏だろうと思う。その他、どれもみな有名曲ばかりである。
左から、
Beethoven交響曲全集
Brahms No.4
Mendelssohn No.4<イタリア>
Dvorak No.9<新世界より>
トスカニーニは、その名前ほどには現代ではそれほど聴かれていないのではないだろうか。モノラル録音しか残していないし、多くのレパートリは、カラヤンなどの新しい指揮者の演奏で置き換わっているため、トスカニーニを選択する理由が薄くなっているといえる。また、穏やかな音楽に癒やしを求める傾向が強まっていることも原因かもしれない。トスカニーニの演奏を聴くと、その音楽に常に強靱な精神を感じるが、こういった演奏は現代人には少し荷が重くなっているのかと思う。しかし、ひ弱な演奏ばかりが幅をきかせるというのも情け無い話であり、やはりこの音楽史上の遺産は聴き続けなければならないと思う次第。
Pierre Monteux
モントゥーといえば、ラベルの「ダフニスとクロエ」、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」「春の祭典」の世界初演を行った指揮者として音楽史に出てくるほど古くから活躍してきた指揮者だが、長寿のおかげでステレオ時代に至るまで多くの録音を残してくれている。フランス出身の指揮者にもかかわらずレパートリは広く、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーンといったドイツ音楽にも深い造詣を示す演奏を残している。またいろいろなオーケストラと共演しており、興味の尽きない指揮者の一人である。
左から、
Franck Symphony in D Minor:シカゴ交響楽団
Berlioz Symphonie Fantastique<幻想交響曲>:ウィーンフィル
Haydn No.94<驚愕>, No.101<時計>:ウィーンフィル
Tchaikovsky No.5:ハンブルグ北ドイツ放送交響楽団
このフランクの交響曲は、特に私のお気に入り。香り高い演奏とはこのことかと思う。幻想交響曲はウィーンフィルとのものだが、録音の良さは特筆もの。こういう曲は、やはりステレオ時代の録音でなければ真価が分からない。ハイドンは、モントゥーの古典的な側面と同時にエスプリを感じさせる演奏。最後のチャイコフスキーも、モントゥーお得意のレパートリ。このハンブルグ北ドイツ放送交響楽団とのチャイコフスキーがモントゥーの生涯最後の録音であった。
Hans Knappertsbush
クナッパーツブッシュといえば、ワグナー、ブルックナー。もちろんベートーヴェンやブラームス、さらにはハイドンのような古典も残しているが、ここではブルックナーだけにしておく。
左から、
Bruckner No.3:ウィーンフィル
Bruckner No.5:ウィーンフィル
Bruckner No.8:ミュンヘンフィル
Bruckner No.9:ベルリンフィル
この中で、5番、8番だけがstereo録音である。ブルックナーの交響曲は編成が大きく、その雄大な響きを堪能するのはstereo録音が望ましいと思うが、クナッパーツブッシュのブルックナーは音楽界の財産ともいうべきものであるから、モノラル録音でもやむなしとしよう。その昔、ブルックナーのレコードを最初に購入しようと思ったとき、8番、9番から入ったのだが、世評を読んでクナッパーツブッシュにしようか、シューリヒトにしようかと悩んだ。両者ともというのは懐が許さない状況であった時代の楽しい想い出である。
Carl Schuricht
シューリヒトは、クレンペラー、クナッパーツブッシュと並ぶ世代のドイツの指揮者で、非常に細かいところまで神経の行き届いた演奏を聴かせてくれる。外面的な効果よりも常に楽曲の内面性に目を向け、落ち着きのある味わい深さをもっていることから、シューリヒトのファンはとても多いようだ。レパートリは、やはりドイツ、オーストリアものが主流で、特にモーツァルトとブルックナーに良いレコードを残している。その他に、ブラームスなども素晴らしく、他では得難い指揮者といえる。
左から、
Bruckner No.7:ハーグ・フィルハーモニー
Bruckner No.8:ウィーンフィル
Bruckner No.9:ウィーンフィル
Mozart No.38<プラハ>, No.41<ジュピター>:パリ・オぺラ座管弦楽団
ここに上げたブルックナーは、私がコメントするのもはばかられほど、どれもこれらの曲に関する代表的名演として多くの評者が推奨する演奏である。シューリヒトのモーツァルト録音は意外に少ないのだが、このパリオペラ座管弦楽団との演奏はシューリヒトの演奏スタイルを良く表している演奏の一つである。
Leonard Bernstein
バーンスタインは、単なる指揮者として扱うにはあまりにも活動範囲が広く、一言で言えば「音楽家バーンスタイン」ということになると思う。指揮者としてみても膨大なレパートリを誇っており、多くの名演を残しているが、オーケストラを育成するのは苦手だったようだ。ニューヨークフィルハーモニックを指揮していた時代から、次第にヨーロッパのオーケストラを指揮するようになり、最後は音楽界の重鎮のようになった。「踊る指揮者」の異名を取った最初の人でもある。
これらは、バーンスタインが1960年代に録音したマーラーの交響曲。
左から、
Mahler No.1<巨人>:ニューヨークフィル
Mahler No.2<復活>:ニューヨークフィル
Mahler No.8<千人の交響曲>:ロンドン交響楽団
Mahler <大地の歌>:ウィーンフィル
マーラーが1970年代以降ブームになったのはバーンスタインの功績が大きいとも言われているが、その真偽はともかく、1960年代に録音されたこれらのマーラー演奏で初めてマーラーの音楽に接した方も多いと思う。<大地の歌>は、バーンスタインが所属していた米国CBSとウィーンフィルを擁していた英国DECCAが話し合って実現した組合せ。この組合せは当時大きな話題になった。

バーンスタインとウィーンフィルの組合せの第一弾は、このレコードだったと思う。モーツァルトの<リンツ>と、バーンスタイン自身のピアノによるモーツァルトのピアノ協奏曲15番。それまで生粋の米国人音楽家と見られていたバーンスタインが、ウィーンフィルから大歓迎を受けて、その相性の良さを証明したレコードであった。