恋心。


私は、その時ようやく―――彼の者の名を知った。



『すっごく、良い計画があるんだよ!今回は必ず成功する!』
 或る時、フィプリゾが声高に話しているのを聞いた。
 また、いつもの陰湿な手を使うのだろうと、私は嘆息した事を覚えている。
 私はすぐさま、ろくに話も聞かず傍観を決め込むことを堅く決意したものだ。理由としては至極単純だった。嗜好が合わない。これである。
 存在を許されてよりこのかた、私とあれとでは全くといっていいほど性が合わなかった。まだ、獣王や、魔竜王のほうが何をするにも気が合った。彼らは武人肌であったからだろうが。しかしながら、それも、ある程度までと条件が付く。それというのも、今は去ってしまったガーヴに、「お前は根暗の根性無し」と烙印を押され、瞬く間に他の者にも広まってしまった為だ。
 こんな仕打ちを受けて、完璧に気が合う者がいれば会ってみたいものだ。全く以って失礼極まりない。
 私に言わせれは、かの魔竜王こそが「下品この上ない暴れん坊」と言えるのだが・・・・。
 だが、そう思わない者もいる。
 狡猾を以ってする獣王などが良い例だ。今となって尚、かの魔竜が戻ってくる事を切望している。言葉や態度に出る事はないが、私は彼の者が件の竜王に今も執着し続けているを知っている。
 アレほどの切れ者が何故なのか?
 何かの折に、クワセモノの獣神官が漏らしていた『お遊び』が過ぎたせいなのだろうか・・・。それとも、元々からの性向だったのか。
 いずれにせよ、あの艶やかな獣があのままではいずれ来る滅びの計画に差し障りがでる。
 時を見て愚かな感情を捨てるよう言っておくか。今のところ此れについては私だけが知っているようだからな。もし、このことが冥王の知るところになれば・・・・どうな・・・いや、それよりも海王に知られるほうが不味いだろう。あれはそれを手にするや何を始めるか分かったものではない。
 冥王よりも性質が悪い。
 引いては私にも影響が及ぶこともあるだろうしな。なんとも、わずらわしい事だ。
 皆で滅びを推し進めねばならぬと言うのに、各々が好き勝手をしているのだからな。
 さぞかし、赤眼の魔王様も焦慮されていることだろう・・・・・。
 なにやら、またくだくだと言い募っていたようだ。このような体であるから、何かと好き放題言われるのであろう。分かってはいても性分ゆえどうしようもない。
 が、少しずつでも隠すなり何なりせねばならないな。このような性情であっても、私は誇り高き赤眼の魔王様の腹心、覇王ダイナスト=グラウシェラーと呼ばれる者。他の者たちがあのような有様である以上、私だけでも冷静に事を進めぬばなるまい。

 などと至極暢気に傍観を決め込んでいたのだ。
 だが、この時の私は一欠けらの絶望ほどにもあり得ないことが、わが身の上に起こるなどと考えもしていなかった。しかし、その非現実的なモノは、まるで手のひらに載せて差し出されたかのようにはっきりとした重みで私を占領することになったのだ。

(続く)


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