剣は火花を散らし、傷を与え合いながら、交わす刹那の視線。
戦いの中で思いを送った。
私の、私ゆえの想いの証。
言葉など無用。―――あの時の彼の者の視線も物語っていた。
そうして、私へと注ぎ込まれる愛憎。
憎しみなら分かる。だが、何ゆえ彼の者が私への恋慕を抱いていたのか?私の持つ強き力に惹かれたのであろうか。まさかな。我が同族でもあるまいに。仮にそうだとしても・・・別段それが面白くないというわけではない。我が力は私であるのだから。いや、肉体を持ち得ない分、その方が筋が通るではないか?
私は何時の間にやら戦いの最中にいるような高揚感を感じていた。何ゆえか。彼の者は戦女神ででもあるのだろうか?剣を振るうでもなく、ゴミを踏み潰しているわけでもない。ただ、記憶を手繰り寄せているだけだというのに、私の上っ面の理性を根こそぎ奪い取り本能を曝け出させてしまう。
今の私にあるのは・・・・
あの・・・彼の方の剣を手に私に向かってくる場面、私を切り裂いた瞬間。
私の視線を包み込むように受け止めた彼の瞳。・・・私が去るを歓喜していたが、それ以上に悲しみ、その現実を拒絶していた。
ここに漂い始めて最初のうちは、あの瞳の色が何であったのかなど解らなかった。恋慕などというものは。
当然だ。私は最もこのようなことから程遠い存在であるのだから。ゴミどもならばこう言うのであろうか?『想いと言うものに気づく事もないとは、なんという哀れか』と。
だが!我らが偉大なる母上は私にも奇跡を与えたもうたか。私はその意味を得たのだから。彼の者の瞳の色、己が此れほどに彼の者を求めていること、そして彼の赤い輝きの麗しさに。
まさしく――であろう。
ああ、会いたいものだ。すぐにでも。
しかし、今はとりあえず、ここから彼の姿をそっと覗くくらいしか出来ないのだ。
いや待て。分身を彼の者の下へ送ることなら可能だ・・・・・。だが、そのように非効率的なことは回復の時間を無為に長引かせるだけだ。無様な姿を晒す事は我がプライドにかけて出来ぬ。何よりも、完全な私でなければ彼の者の前に出る意味がないのだ。
ああ、なんという如何ともしがたく、もどかしい時。もどかしい体。
とく、時よ過ぎよ。
しかし、時間がかかりすぎれば、彼の者は逝ってしまう。そう考えると気が狂いそうになる。
今この時も目前にいる下等な我が眷属をいたぶっては糧としているのだが、私の中に取り込まれる闇は――負の感情は極僅かなのだ。・・・・好かぬが、僅かな糧をかき集めるより、いっそのこと獣王の傍で美麗な嘆きを聞くほうが治りが早いかもしれぬ。仮にも腹心であればその悲嘆は如何許りの力となることだろう。
そして、私はまた、盛大にため息をついた・・・・。
覇王たるものがなんと言う取り乱し様―――ああ、なんとした物狂いか。
我が誇りも意地も地に堕したに等しい、これではゴミどもの言う、『色恋にとち狂った只の男』そのものではないか。
この事を、我が王が存じおるところになれば・・・・・・。そう思うとキリキリと自分で自分を苛んでしまうのだが、それでも・・・それでも私の思いは涸れるということを知らないのだった。
なんとなれば・・・・不可思議な成り行きとなったことか。これこそ、
――― 魔族の恋 ―――
異様な現実だ。
極まれであろうが―――滑稽なほど洒落た事が起こることもあるのだ。
世に存在するを許されてから、初めての感覚を満喫し、唯一つのモノが、私の全精神を昂揚させている。此れもまた・・・彼のお方の気まぐれであろうか?
必ず・・・必ずや、そう遠くない日にまた、彼の者を目の当たりにする。そう思う度、私は、熱いものに支配されるのだった。
その時こそ交えよう。
剣ではなく、我が両の腕を。想いを。彼の細身を我が腕に抱きとめるのだ。
彼の者に否やはない。そう確信している。―――あろうとも浚ってゆくまでだが。
そうして・・・彼の瞳は我のものとなる。なぜならば、今も奔流のように流れつづける彼の者の想いが。我が名を呼び、我を求める嘆きと思いが届けられているからだ。
しかし毎度の事ながら感心させられる。この精神世界にまで届くとは、なんと強き想いであることか。このような事は生半な力量では出来ぬゆえ。
この想いが私の物である――その感触を楽しむ度に、こそばゆい快楽が沸き起こる。
「想いに境界、距離など関係ない」だったか?あの言葉は、正しかったのだな。よく言ったものだ。これに関してだけゴミどもに賛辞を送ろう。
だが、最高の賛辞は・・・・我が愛しき彼の者へ。それを見事体現しているのだから。
広大なる精神世界で、私は自身の巨大な体をゆったりと漂わせながら、非現実な想いを巡らせる。
稀なる―――永遠の我が想いと、私の想い人―――彼の者、リナ=インバースへ。
今はただ――。
それらを夢見ている・・・・。
とりあえず・・・・完。
住ちゃん・・・・・(TT)
ごめんね〜。
一体これのどこらへんが甘く、かつ、らぶ♪であるのか?
しいて言うならば・・・・・。
タイトルだけか(死)
見捨てないでね・・・・・。
三下管理人 きょん太拝