「これからどちらへ?」
夕食の後、彼女が少し寂しげに問いかけてきた。あえて気付かぬフリを装い答える。
「特には決めてないがな。南に行こうと思う」
「南…………ですか」
「ああ。寒いのには飽きた」
彼女が正直な感想にぷっと吹き出す。
「それもそうですね。ここは夏でも涼しいくらいですから。冬の今、どこよりも寒さは厳しいはずです」
冬。冬の、女王。…………なんだろう。やけに引っかかる……。
「……ゼルガディスさん? どうかしたんですか?」
考えに沈んだ自分を心配してくれたらしい。
「いや、なんでもない。それよりアメリアは、これからどうするんだ?」
「わたしですか? わたしは……父さんの用事で付いて来ただけですから……父さんが帰るなら、わたしもセイルーンに帰ります。ゼルガディスさんはいつまでこちらに?」
「言った通り、目的地なんてあってないようなものだからな。逆に言えばいつ出発してもいい」
ぱっとアメリアが顔を輝かせる。
「それならしばらくはここにいてください! わたしもいますから」
予想通りの発言に呆れる。
「仮にも一国の王女が何を言っている。親父さんが可哀想だろう」
「それは……大丈夫です! …………たぶん……。だって父さんとはずっと一緒ですけど、ゼルガディスさんとはそうもいきませんし……」
だんだん声が小さくなる。しょうがないな。これ以上言って泣き出されても困る。こちらが折れるしかなさそうだ。
「ちゃんと説得できるならな」
「はいっ!」
アメリアは溜息混じりの言葉に、にっこりと笑った。
――御伽噺 陸 に続く。
稿了 平成十一年二月十一日木曜日
改稿 平成十二年二月二十九日火曜日