御伽噺 伍

 

 

「これからどちらへ?」

 夕食の後、彼女が少し寂しげに問いかけてきた。あえて気付かぬフリを装い答える。

「特には決めてないがな。南に行こうと思う」

「南…………ですか」

「ああ。寒いのには飽きた」

 彼女が正直な感想にぷっと吹き出す。

「それもそうですね。ここは夏でも涼しいくらいですから。冬の今、どこよりも寒さは厳しいはずです」

 冬。冬の、女王。…………なんだろう。やけに引っかかる……。

「……ゼルガディスさん? どうかしたんですか?」

 考えに沈んだ自分を心配してくれたらしい。

「いや、なんでもない。それよりアメリアは、これからどうするんだ?」

「わたしですか? わたしは……父さんの用事で付いて来ただけですから……父さんが帰るなら、わたしもセイルーンに帰ります。ゼルガディスさんはいつまでこちらに?」

「言った通り、目的地なんてあってないようなものだからな。逆に言えばいつ出発してもいい」

 ぱっとアメリアが顔を輝かせる。

「それならしばらくはここにいてください! わたしもいますから」

 予想通りの発言に呆れる。

「仮にも一国の王女が何を言っている。親父さんが可哀想だろう」

「それは……大丈夫です! …………たぶん……。だって父さんとはずっと一緒ですけど、ゼルガディスさんとはそうもいきませんし……」

 だんだん声が小さくなる。しょうがないな。これ以上言って泣き出されても困る。こちらが折れるしかなさそうだ。

「ちゃんと説得できるならな」

「はいっ!」

 アメリアは溜息混じりの言葉に、にっこりと笑った。

 

 

――御伽噺 陸 に続く。

稿了 平成十一年二月十一日木曜日 

改稿 平成十二年二月二十九日火曜日


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