昔話はここでお終い。その後、彼らの姿を見た者はいないと言います。
一方、家にひとり、取り残された王女は――。
「ゼルガディスさん? もう朝……………………!」
部屋には、彼が愛用していた剣が抜き身で転がっていただけでした。彼が寝ていた筈のベッドは乱れ、冷たくなっていました。荷物を置き去りにして、彼の姿は煙のごとく消えてしまっていたのです。
それから王女は必死で彼の姿を探しました。が、結局見つからないまま、捜索は打ち切られたそうです。
彼らがどこに行ったのか。それは誰も知りません。凍りついた女王の部下が、どうなったのか、も。
洞窟は現在、崖崩れが起きて通れなくなりました。近くの村は、数日後に起きた地震で壊滅的なダメージを受け、生存者は一人もいなかったそうです。そして王女はその後、外の国との戦争に巻き込まれ、命を落としたそうです。
王女はその日を迎えるまで、いなくなった青年を一時たりとも忘れなかったと伝えられています。
真実は闇の中に葬り去られました。今では誰も彼らを、彼らを取り巻く昔話を、知る者はいません。
昔々のお話です。遠い昔の、御伽噺です……。
――あとがき を読む。
稿了 平成十一年二月十一日木曜日
改稿 平成十二年二月二十九日火曜日