「どうやら・・・・・・あの石碑の文句は、一種のワープ呪文のようね・・・」
リナが古文書を読み読み、つぶやく。
「ワープ?」
「うん。なんでも、二人で唱えるものらしいけど、よほどの魔力がないと発動しないんだって」
それだけ、リナと俺の魔力容量値(キャパシティ)が大きかった、という意味だろう。
「特定の場所へ、というわけじゃなさそうだが・・・・・・。どうすれば帰れるんだ?」
「ん〜。なんか、こっから先は燃えて炭みたいになっちゃってるし・・・・・・ほとんど読めないけど・・・」
難しそうな顔のリナ。確かに、その古文書の肝心な部分は黒と化している。
「だーっ!! こんなことならもっと値段つければよかったぁぁぁー!!」
青い空に向かって絶叫する。・・・・・・どうとでもなるものでもないが。
しかし、よくころころと表情を変える奴だな・・・。
───そこがかわいいんだが・・・。
「あたしのお金を返せぇぇぇ・・・?」
? リナの声が裏返っている。
「どうした? リナ」
「・・・・・・・・・ねえゼル。今夕暮れだっけ・・・?」
・・・・・・・・・は?
「まだ昼を過ぎたばっかりだろ? 何を見て・・・・・・!!」
リナの視線を追った先。
それは、真っ赤な空。・・・・・・・・・・・・昔、散々見慣れた光景。あれは・・・。
「火事!?」
「いくわよ、ゼル! 翔封界(レイ・ウィング)!」
リナが呪文を唱え・・・・・・っておい! 今呪文は・・・・・・・・・。
べしょっ。
・・・・・・・・・・・・見事にまでもすっ転んだ・・・。
「ああああああ!!! あの日だってこと忘れてたぁぁぁぁぁぁ!!」
目がすこし潤んでいたりする・・・・・・・・・悔し涙と、転んだ拍子の痛みによる涙だろう。
「はあ・・・」
ため息をつきながら、リナの小さな身体を抱き抱える。
「きゃっ・・・・・・ちょ・・・! 何すんのよ、ゼル!!」
「暴れるな! 落ちても助けんぞ!」
怒鳴りながら、俺は翔封界(レイ・ウィング)の呪文を唱え、リナと共に空へと舞い上がった。
紅い。赤い。真っ赤な視界。
炎。血。血。ヒトの血・・・。
全てが赤い。私には似合いの色だ。
「フン・・・・・・つまらんな・・・」
顔についた返り血を、やや乱暴に拭い、呟く。
何故だろう。もっと壊したい。もっと殺したい。もっと、否定したい。
それは。
私が魔族だから。
破壊の衝動。力への固執。私怨。そして・・・・・・・・・・・・憎悪。
私の身体を支配するものは、それだけしかない。
これを、魔族と言わず何と言う? この異形の身体も、それを物語っている。
ガッ・・・・・・。
ふいに、硬い・・・私の肌のように硬い何かが、顔に当たる。・・・・・・もっとも、痛みは感じないが。
首を、ゆっくりと転換する。
そこにいたのは、少年だった。震える手には、小石が二・三個。
「かっ・・・・・・母さんを・・・・・・」
途切れ途切れの声。私に対する恐怖。そして憎しみの。
「村のみんなを・・・・・・母さんを・・・・・・っ!
父さんを返せ!!」
・・・・・・・・・フン。
剣を振るう。少年の喉から、また真っ赤な血が迸る。私の持つ剣が、頬が、服が、紅く染まる。
「お前は・・・・・・選ばれたのだな・・・」
物言わぬ肉塊の頭を掴み、私はそう囁いた。
「母親に・・・・・・・・・そして父親に・・・・・・」
だらりと落ちたその手から、ぽたぽたと生暖かい液体が流れ落ちる。
「だが、覚えておけ・・・・・・愛情は・・・この世でもっとも愚弄な感情だということを・・・・・・!!」
『父を憎みなさい。人を殺しなさい。あなたは人間たちから裏切られたのよ』
──温もりなど、いらぬ・・・。
「・・・・・・フン」
放り投げる。
ドサッ・・・。
「え? きゃ! ちょっと大丈夫!?」
火の手があまりない町の中心部に下りてすぐに。
炎より顔を赤くしたリナに、何かが飛んできた。反射的にそれに目を向ける。
「え? きゃ! ちょっと大丈夫!?」
リナが脈を計ろうとするのを、俺は手で制した。見なくてもわかる。
シンデイル。
ふ、と顔を上げた俺の目に入ってきたものは。
赤い染みのついた、白い服。
そして、握られている奇妙な作りの空色の剣。
金属の。銀色の、髪の毛。
どぐんっ!!
俺の心臓が、はっきりとわかるように鼓動した。昔の俺を、かいま見たようで。
・・・・・・・・・いや、『そいつ』は俺そのものだった。
「フン・・・魔道士が二人か。私には不釣り合いだな」
振り向いてさえいないのに、気配から俺達の正体を見破った!?
ガウリイの旦那ぐらいしかできないぞ! それは!
こいつ・・・・・・一体・・・?
「失敬ねー。不釣り合い、ですって?・・・・・・ふざけんじゃないわよ」
ゆらりとリナが立ち上がる。怒りのオーラを、その身に纏って。
だが。
『そいつ』はリナの方を一瞥し、フンと鼻でせせら笑って。
「なんだ・・・・・・小猿か」
ぴき。
リナの額に、青筋が立っている。
「・・・・・・ぬわんですってぇぇぇぇぇ? 誰が小猿なのかなぁぁぁ?」
「リナ、落ち着け! 呪文の使えないお前が挑発されてどうする!!」
「放せ、ゼルガディス!! 一発殴ってやるぅぅぅぅぅ!!!」
はがい締めにしたリナが、じたばたと両手足をばたつかせる。
「・・・・・・・・・ぜる、がでぃす?」
裏返った声がした。目の前の『そいつ』。
「・・・・・・貴様、ゼルガディス・グレイワーズか?」
振り向く。
岩の肌。俺と同じ────合成獣(キメラ)?
「・・・・・・・・・ああ。そうだ」
そのことに呆然としている俺は、やはり呆然と答えた。だから、反応が遅れたのだろう。
「ゼルっ!!」
リナの声で、我に返る。
ひゅ!
風を斬る音と、閃く白銀の光。貫頭衣のすそが、はらりと舞う。
できる!
「こんなところで会うとはな・・・・・・ゼルガディス・グレイワーズ・・・!」
『そいつ』は無機質な黒い瞳で、こっちを睨んだ。
「フン!!」
#2・了
浅島 美悠様よりのコメント
あちょっち補足説明ですわ。
何に? といわれましても・・・・・・ちょーっとだけですわ・・・。
リナの夢はこのゼル君そっくりさんの視点からの夢ですわ。
いや〜美悠はどおーもこの子が気に入って・・・・・・つーかぜーんぶパクってますが・・・。
ちなみに言うと、ゼル君とリナちゃん、らぶらぶしてるのシーンはほとんどありませんですわ。
はい。・・・・・・一応修正しますけど・・・・・・。では。
Miyu Asazima
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