もっと強く生きられる? きっと夢は叶う?

#14 獣神官リディス その5




そのころリナ達は、アミエラの案内でアルト山に入山し・・・・・・。
ザッ!!
「ああああああああ! また道間違えちゃいましたぁー!!」
迷ってた。
「だぁぁぁぁあああ!! これでもう八七回よ!!」
「ごめんなさーい! 私方向オンチなんですー!!」
「つーか同じところを何回も歩いているような・・・」
大ピンポン(笑)
「うええぇ〜〜〜ん、これじゃあ中腹なんてとても着けませんよ〜」
「泣いたってしょーがないでしょーが・・・」
はあ・・・・・・とため息をつくリナ。
「しかし・・・・・・奴はなんだって増幅のタリスマンなんかを取りに行ったんだろうな。リナ」
「母さんも言ってたじゃないですか! ゼルガディス様やリナ様に対抗するためです!」
ぴっ! と人指し指をおったて、アミエラが言い放つ。
「あたし達はリディス達に押されていたのよ? そんなことする必要ないじゃない」
一休み、とでも言わんばかりに三人は手近な木の根元に腰を下ろす。
「第一、なんだってあたしは・・・・・・・・・タリスマンを・・・?」
「それ、母さんにもわからないそうなんです。リナ様の居場所を探すのを、あきらめかけた時・・・。
小包が届いて・・・・・・・・・その中に入っていたんです・・・。魔血玉(デモン・ブラッド)のタリスマンが・・・」
ポツッ・・・・・・ポツポツッ・・・・・・ザァー・・・。
雨が降り始め、ゼルガディスが風の結界を張る。
「一緒にあった手紙には・・・・・・預かってくれ、とだけ・・・書いてあった・・・・・・・・・って・・・」
「・・・・・・・・・そう・・・」
なんかよくわかんなくなってきた・・・・・・。
リナは胸のうちで呟く。
獣将軍(ジェネラル)リディス。
あたしの魔血玉のタリスマン・・・・・・。
あれは、特定の呪文を唱えないと威力を発揮しない・・・。
けど・・・獣将軍・・・・・・・・・というのなら、おそらくはゼロスにでも聞いて知ったのだろう・・・。
アレは元々・・・・・・ゼロスのモノだったんだから・・・。でも・・・・・・・・・まだ腑に落ちない点が、いくつかある。
セイルーンの攻略はともかく・・・タリスマンの件は──なんか・・・リディスの単独行動のような・・・。
その時。
っゅん!
『っ!!』
突然気配を感じ、三人は思わず身構えた。
「お・・・・・・・・・お願い・・・です・・・・・・・・・。リディス様を・・・・・・・・・リディス様を助けて・・・・・・下さい・・・」
体中に、無数の白い傷痕を・・・・・・血が出ぬ傷を負った空色の髪の青年は、そう呟いた。

「あんた・・・・・・確かリディスのトコにいた・・・・・・」
「レイン、でしたよね」
呆然と、少々の警戒を混ぜてリナとアメリアが問う。
「そっ・・・・・・そん、なことより・・・・・・・・・。魔剣士ゼルガディス・・・・・・魔道士リナ・インバース・・・・・・・・・」
顔を上げる。
「あなたの・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなた方の娘・・・の・・・・・・。リ、リディス様が・・・・・・大変、なん・・・・・・です・・・」
・・・・・・え──?
「むす、め・・・・・・?」
「リディスが・・・・・・・・・俺達の・・・?」
「・・・はい・・・。獣神官(プリースト)ゼロスの罠にかかり・・・瀕死の重傷を・・・・・・」
あの・・・・・・・・・今まで戦ってきた・・・少女が・・・。
娘・・・・・・。
「オレは赤子の時より、リディス様に仕える・・・・・・従者です・・・。
あの方は・・・・・・悲しいお方・・・なんです・・・・・・。
リディス様は・・・・・・父の・・・・・・・・・ゼルガディスの・・・合成獣(キメラ)の血を引き継いでしまわれ・・・・・・。
・・・そのせいで・・・・・・魔族として・・・獣将軍として育てられたんです・・・。
父を、母を憎むよう・・・・・・人間を憎むよう・・・・・・魔族に味方するように・・・・・・。
獣王(グレーター・ビースト)ゼラス・メタリオムに・・・・・・」

『ゼル・・・ごめんね・・・・・・・・・。あたしのせいで・・・こんな病気のせいで・・・・・・迷惑かけちゃって・・・』
『あのなあ・・・どこの世界に、好きな女を見捨てる奴がいる? それに・・・・・・・・・お前は俺の妻、だろ?』
『・・・・・・・・・うん・・・でもさ・・・・・・』
『立つことも満足にできないよーな身体で、そんなにしゃべるな。もう寝ろ』
『・・・・・・ありがとね・・・・・・・・・。ゼル・・・』

────リディス。これがゼルガディス。あなたの父。
    母の・・・・・・妻のリナを選び、あなたを魔族に売った男・・・。
    あなたのことなど、これっぽっちも想っていない。
    あなたは捨てられたのよ。

父を憎みなさい! 人を殺しなさい! リディス!! あなたは人間達から裏切られたんだからね!

「そしてリディス様は・・・・・・多くの人を・・・国を・・・・・・滅ぼしてきました・・・。
人を・・・父を・・・・・・・・・母を・・・・・・恨んで・・・。
愛されていない憎しみ・・・・・・苛立ち・・・・・・孤独・・・。
幾多の哀しみを背負い・・・・・・己への罪として・・・罰として・・・戦い続けて・・・・・・・・・。
戦火の中に身を置くことで・・・その心を炎にくべてきたのです・・・・・・」
雨が降る。冷たく、激しく、泣くように。
「・・・・・・・・・リディス様が父と直に対面したのは八歳のころ・・・。
しかしその時には・・・リナ・インバースは殺され・・・ゼルガディスは・・・。
・・・・・・ゼラスの鑑賞用として・・・水晶の中で眠らされていました・・・・・・」
人殺しを強いられ・・・・・・仕方なく殺し・・・・・・。
ヤケクソになって・・・・・・何もかも信じられなくなって・・・・・・。
あいつは・・・・・・・・・やっぱり俺なんだ・・・。おれの過去・・・・・・亡霊・・・なんだ・・・。
ぎゅっと握り拳をつくる、ゼルガディス。
「そんな中、リナ・インバースの遺品・・・魔血玉のタリスマンの存在を知り・・・。
魔族を裏切り、ゼラスを倒そうとなさったんです・・・」
すべては、父を助けるため。
「けど・・・・・・」
ぱた。
雨とは別の・・・・・・雫が落ちる音がする。
「オレの力が至らないばかりに・・・」
ぱた。ぱたぱたっ。
「オレが・・・ふがいないばかりに・・・・・・・・・」
ぱたたっ。
「リディス様を・・・・・・・・・傷つけてしまって・・・・・・」
それは、涙。
自分への責めと。
少女への謝罪の、涙の音。
「・・・・・・お願いです──」

リディス様を助けて────


    #14・了



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