「だから・・・・・・これだけは・・・これぐらいは!!」
手を振る。
バキィッ!!
空色の旋風が、十字架を砕く。
「リディス!!」
リナがリディスの体を受け止め、すぐさま治療(リカバリィ)をかける。
「一応・・・平気よ・・・・・・・・・気絶してるだけ・・・」
ほっとしたような顔で・・・・・・心底ほっとした顔で、リナがそう呟いた。
──ィンっ・・・。
『ゼロス。帰ってらっしゃい』
透き通った声が、周囲に響いた。
「ゼラス・メタリオム・・・!」
「ゼラス様、しかし・・・・・・」
レインの畏怖の一言とゼロスの反論の言葉。
『命令よ。水晶はこっちで回収するから、あなたは帰ってらっしゃい』
冷やかな声がゼロスに拍車をかける。
「──はい」
苦虫をかみつぶしたような顔で、応答し──獣神官(プリースト)は消えた。
呆然とした顔で、それを見送るレイン達。その時。
ごぅっ!!
突如として烈風が撒き起こる。空の上に、巨大な魔方陣が描かれていた。
「なっ! なんですかあれは!!」
アミエラの問いに、答える者はいない。
その内、蒼い水晶が、吸い込まれるように──実際、吸い込まれているのだろう。
フワリと舞い上がった。
『回収』。
烈風に押されて、そこにいる全員が動けなかった。
──いや。
「リディス!! ちょっと!?」
リナの治療で目を覚ましたリディスが、たんっ! と地を蹴り、水晶に手を伸ばす。
「とうさ・・・・・・」
ズバッ!!
水晶の表面から、つららのようなものが飛び出る。
それに・・・・・・ほとんど全身を貫かれ・・・・・・・・・・・・リディスは堕ちていった。
そのサマを、別の水晶で見る獣王。
「まっ・・・・・・たまにはこんな公開処刑もいいでしょ(はぁと)」
ゼルガディスの水晶が、元の位置に戻る。
が。
「どったのゼロス。すんごく不機嫌そーな顔して」
「・・・・・・・・・」
空中で足を組み、顔にはあのニコニコさわやかな(!?)微笑みがあるが・・・・・・。
額に青筋一本(笑)
<魔族に青筋あったっけ・・・・・・でーすわ。>
「仕方ないでしょ? あの二人は過去から来たんだもん。
殺したら、『今』が変わるじゃない。私、コレ持っていたいしさ〜」
ちょいちょい、と水晶を指さす。
「ま。確かに、あの方は言っても聞かない性格ですし」
「そーそー。十年前もそーだったわよね〜。
ゼルガディスだけを逃がして、たった一人で私達と戦(や)りあったんだから」
ん〜と伸びをする金髪の魔族。
「ほんじゃ、また獣将軍新しく創り直そっか。やっぱリディスは失敗だったわね〜。
いくら合成獣(キメラ)をベースにしても人間は人間ってところなんでしょーね」
「ですね」
ふっと、水晶の映像が消えた。
「リディス!! しっかりしなさいよ!」
「リディス様!」
治療を再びかけるリナ。それに、ゼルガディスも加わる。
手遅れだと解っていた。
けど・・・・・・何もしたくはなかった。
ただだまって死を待つような行動は、したくない。しない。
それが彼らだった。
「赤・・・か・・・・・・。ククッ・・・・・・・・・・・・やは・・・り、私、に・・・・・・相応しい色・・・・・・だ・・・」
「リディス、しゃべるな!」
ゼルガディスが、焦ったような声で言う。
「・・・・・・魔女は・・・・・・火あ、ぶりと・・・・・・相場は決まって・・・い、るんだ・・・・・・が・・・・・・。
こういう・・・・・・死に方も・・・・・・あり・・・ということ、か・・・・・・」
「リディス・・・・・・さん・・・」
アミエラが、何を言えばいいのかわからず、名前を呼ぶ。
落ちてくる雨を、目を細めて見つめるリディス。
「売られた・・・父に撃た、れ・・・・・・この・・・ありさま・・・・・・で・・・」
「リディス様、それはっ・・・・・・」
「いい・・・・・・・・・・・・わ、たし・・・など・・・・・・・・・死ねば・・・いいんだ・・・・・・・・・」
虚ろになりつつある瞳。
「売られたんじゃない!!」
従者の悲痛な叫びが、それにほんの少しだけ生気を宿らせた。
「リディス様──あなたは・・・・・・」
まるで、何かに耐えてきたかのように身を震わせ、レインが言い募る。
「あなたはゼルガディスに売られたんじゃない! さらわれたんです!!
それは、ゼラス達があなたをだまそうとしてやった策略です!!」
治療の光りが、静かに灯る。傷は、ほとんど塞がっていない。
「ゼルガディスはいつも悔いていました!! リディスのことが気がかりだって・・・・・・!
無事に生きているのかどうかって・・・・・・!!
リナ・インバースの方にしたって・・・自分が死んだら、安心してゼルはリディスを助け出せるよねって!!
いつも言ってました! いつもいつも!! あなたのことを心配していたんです!!」
病に倒れ、ベットの上で、母は楽しそうに父と話していた。
でも・・・・・・その笑みに・・・その会話の中に・・・・・・・・・何か寂しげなものがあったように感じたのは・・・・・・。
「そっ・・・・・・そーよ! 大体あんた、神託の天使のなんたらっての知ってるんでしょ!?
こんなトコで死んだら、あたし達帰れないじゃないの!! しっかりしなさいよ!
あんた・・・・・・っ。
あんたあたしの子でしょ!?」
最後の方は、やけにはっきりとした口調で──耳に残った。
「ゲホッゲホッ!! カハッ・・・・・・ア・・・・・・ッ!」
咳き込むと同時に大量の血が、口から吐いて出る。
「リディス!」
「・・・あ・・・・・・・・・ありが・・・と・・・・・・・・・。ウソでも・・・・・・うれ、し・・・・・・・・・」
目の前がぼやける。リナが、ゼルガディスが、レインが、アミエラが、自分を見ているのがわかる。
「これ・・・で・・・・・・安心して・・・・・・・・・死ねる・・・」
初めて、リディスはにっこりと無邪気に笑って見せた。
「おい、リディス!」
「リディス様!!」
────ひどいよ・・・・・・。この人・・・。
アミエラが、泣きそうな顔で呪文を唱える。
────だまされて・・・裏切られて・・・傷ついてまでして・・・・・・。
お父さんを・・・助けようとして・・・。
それなのに・・・こんな風に・・・逝っちゃ・・・・・・あまりにも、悲し過ぎる・・・・・・。
ふわっと、白い光が握りしめた両手に集まる。
─────お願い・・・。
母さん。神様・・・・・・誰でもいい! 私に力を・・・!! この人を助けたい!
「復活(リザレクション)!!」
フォ・・・。
突き出した両手に、治療よりも優しい光が灯る。
「死んじゃダメだよ・・・!」
うわ言のように、呟くアミエラ。
「目を覚まして・・・・・・『帰って』きて・・・・・・」
私達がいるから・・・・・・!!
#16・了
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