もっと強く生きられる? きっと夢は叶う?

#15 罪人と懺悔



ザァ──・・・。
「くすくす・・・・・・。ゼラス様のお部屋に飾られた、ゼルガディスさんにそっくりですね・・・」
ゼロスが小さく笑いながら、十字架に磔にされた少女を見やる。
「さすがに、釘で手足を穿つというのは綺麗じゃないので、鎖で縛りましたが・・・。
お似合いですよ? 裏切り者さん(はぁと)」
無言。
怒りも悲しみもない。覇気のない虚ろな瞳で、水晶を見つめる。
「魔力も封じました。
さすがのあなたも、父親を盾にされてはなにもできませんからね。
とはいっても・・・・・・観客が僕だけとは・・・少し悲しいですが・・・・・・」
困ったように頬をかくゼロスの言葉を脳裏に。
リディスはぼんやりと、水晶を見つめ続けた。
───・・・・・・・・・・・・。
   ゼルガ、ディスの・・・・・・水晶と・・・・・・・・・。
   魔血玉(デモンブラッド)の・・・タリスマン・・・・・・・・・。
   父と・・・・・・母・・・。
   ・・・・・・・・・私は・・・・・・どちらからも捨てられ・・・・・・・・・。
   助け、ること・・・も・・・・・・・・・できなかった・・・・・・。
   ゼラスを倒すことも・・・できずに・・・・・・・・・。
ふ、と自嘲気味のため息がこぼれる。
いいのだ・・・・・・私など・・・。し・・・・・・。
刹那。
「魔風(ディム・ウィン)!!」
ごおっ!
「リャアァァァ!!」
バキィィィィィィッ!!
元気な掛け声と共に、ゼロスの身体が吹っ飛んだ。
「なっ・・・?」
「今です!! ゼルガディス様! レインさん!」
アミエラの声をきっかけに、ゼロスに踊りかかる二つの影。
「崩霊裂(ラ・ティルト)ォォォォ!!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
青白い火柱と、空色の旋風が、ゼロスの身体を包んだ。

ザァ──・・・・・・。
雨の中、そこだけ時間が止まっているようだった。
「やった・・・・・・か?」
ゼルガディスが呟く。
答える者は、誰一人いない。
手応えはあった。
魔風でアミエラを『飛ばし』、ゼロスに不意打ちを食らわす。
そして、そこからレインとゼルの総攻撃──
だが・・・・・・こんなにあっさりと・・・行くものだろうか?
ぱちぱちぱち・・・。
「いやぁ。お見事ですよ、みなさん」
背後で、のんびりとした声がした。
「そんな! だって・・・・・・」
リナがもう一度光を凝視する。
火柱の中にあったもの。
それは・・・蒼い──透き通った・・・水晶。
「あ・・・・・・・・・」
目を閉ざした青年。多少の違和感はするが・・・・・・そこに在るのは・・・・・・。
「ゼルガディス様・・・?」
「はいそーです」
瞬時にして、水晶の隣に移動するゼロス。
「この水晶は獣王様の一部でもありましてね。そう簡単には砕けませんよ・・・・・・まあ」
ちらりとリナに一瞥を送って付け足す。
「あの方の呪文・・・・・・神滅斬(ラグナ・プレード)ぐらいなら・・・できるかもしれませんが・・・・・・」
くすくすと笑みを漏らす。
「よかったですね。観客が増えましたよ? リディスさん」
!!
鎖で縛られ・・・十字架に、少女はその身を任せていた。
「リディス・・・」
獣将軍(ジェネラル)リディス。
ゼルガディスとリナの娘。
親子────
「ゼラス様が言うには、裏切り者は公開処刑を、とのことでしたけど・・・。
僕以外誰も居ないものですから、少し淋しかったんですよね〜」
その言葉を合図にしたかのように、リディスの周りに、黒い錐が数本出現した。
「リディス様!!」
レインが叫ぶ。
錐が、少しずつ全身に食い込んでゆく。
「ああぁぁ!!」
「っ! よくも!!」
従者は己の主の危機に、耐えきれないと言うように首を振り、空間を渡った。
現れたのは・・・・・・ゼロスの懐!?
「レイン!?」
「無茶だ! 戻れ!!」
ゼルガディス達の声も聞き入れず、レインは両手を振り下ろした。
仕方なく応戦するゼロス。
「うるさいですねぇ・・・・・・リディスさんに情でも移りました?」
錫杖の一撃で、灰になる両腕。
「あぐっ!!」
呻いてくの字に体を丸める。
「その程度の力で僕を倒そうなんて、百年はやいですよ?」
「・・・・・・う・・・」
そんなことは、百も承知だ。
でも・・・・・・。
「見たくないんだよ・・・・・・」
痛みをこらえて、立ち上がる。
「リディス様は・・・・・・元々戦いや争いが・・・大嫌いだったんだ・・・・・・・・・」
──どうしてそんなことしなきゃいけないの!? わたししたくないー!
「本が好きで・・・・・・元気で優しい・・・・・・明るい少女だったんだ・・・。でも・・・・・・」
──やめてェ!! レインは友だちなのー!!! いうこときくから・・・なんでもきくから!
「ゼラスに・・・・・・お前達に脅され・・・オレを殺すと言われて・・・仕方なく・・・剣を持ち・・・・・・」
──レインをころさないで!!
「・・・・・・戦わないと殺されるという無限地獄の戦場の中で・・・・・・血まみれになり・・・。
術者の心を映し出す飛封翔翼(レイ・リアネル)の翼は・・・・・・帰ってくるたび、赤く染まり・・・」
──たすけて・・・・・・したくないよ・・・・・・。
「小さな心は・・・傷ついていた・・・・・・・・・。そんな・・・・・・」
そんな彼女は・・・。
「そんなリディス様は・・・・・・もう見たくないんだ!!」
雨が、降る。


                       #15・了


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