もっと強く生きられる? きっと夢は叶う?

#10 黒鍵による『運命』 ── 戦火は治まることなく──



・・・・・・・・・ぉおん・・・。
「さて。見学といきましょうか(はぁと)」
遠い爆発音と共に、ニコ目の神官が呟いた。

爆煙の中から、青年が現れる。
空色の髪に草色の瞳、なかなかのハンサムさん。歳は、ゼルと同じくらい。
・・・・・・・・・人に例えるなら、の話だが。
「あんた・・・リディスより少し下のランクってとこ?」
「答える必要はない!」
かっ! どおぉぉんっ!
奴・・・・・・レインが放った魔力球を余裕で避け、呪文を唱える。
ふっ! あの日も越したし、ゼルの思いも聞けたし!
「あんたなんかお呼びじゃねーのよぉっ!!」
リナちゃんバリバリ絶好調!! いっきまーす!
「烈閃砲!(エルメリア・フレイム)」
白い光が、レインに向かって疾る!
避けた所を狙って、ブレイクさせる! が。
ちらりと後ろに目をやって・・・
ばぢっ!
右手で・・・叩き落とした・・・・・・。
「くぅっ・・・」
右手の部分を押さえる。烈閃砲の一撃を受けたのだから当たり前だが・・・。
なぜ・・・・・・避けずに・・・?
「覚悟しなさい! 魔族!」
やたら元気な掛け声と共に、あたしの背後から小さな影が飛び出す。
アミエラ!
「たあぁぁぁ!!」
ひょい。
ずごがしゃっ!
一歩横に移動したレインの脇をすり抜けて、頭から着地する。
う〜ん・・・・・・ここんとこはやっぱアメリアの血だな〜。
「・・・・・・・・・っぷはぁ〜・・・。っと。さすがですねっ! 私の一撃を見破るとは!」
めりこんだ頭を引っこ抜き、何事も無かったかのように言い放つ。
「着地に失敗したんじゃなかったのか・・・?」
あたしもそお思う・・・。
「気のせいです! 崩霊裂(ラ・ティルト)!!」
こうっ!
不意打ちで放った、アミエラの精霊魔術最強の術が、レインに直撃した!
青白い火柱が天を貫き──消える。
立っているのは、あたしとアミエラだけだった。
だが。胸騒ぎが止まらない。まだ、いる。どこかに、いる。
・・・・・・・・・・・・! 
「アミエラ!」
「え・・・?」
くっ!
自然と体が動く。走って、アミエラを突き飛ばす。
それは、あまりにもゆっくりに思えた。
ズッ・・・・・・。
無数の空色の針が、あたしの脇腹に突き刺さった。

「魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)!」
ヴィン・・・。
ゼルの剣が赤く光る。
「はっ!」
そのまま自然体で、リディスに切りかかる! それを難なく避けるリディス。
そして何をトチったか、剣を鞘に戻し、ゼルガディスに向かって突進する!
予想外の行動に、ゼルの身体が迷い、硬直する。
その一瞬を逃すような敵はいない!
「フン!」
がっ!
伸びるような膝蹴りが、ゼルガディスの腹にヒットした。
「っ!」
叫びにならない叫びを上げ、よろめくゼルガディスの腕を掴み、上へ放り投げる!
「進歩なし──か!」
吠え、自分も翼を使ってゼルガディスの上へ回り込む!
速い!
「フン!」
ばきっ!
右頬を殴る。
「ふざけるな!! この程度なのか!?」
ダン!
地面に叩きつけられたゼルの胸ぐらを引っ掴み、みぞおちに拳を入れる。
その反動で、ゼルが大きく吹っ飛ぶ。
「この程度で、あの小猿を守れると思っているのか!?」
どがっ!
またもや先回りをして、背に蹴りつける。
とうとう、前に倒れるゼルガディス。
「この程度で・・・リナ・インバースを・・・・・・守れると思っているのか・・・・・・・・・」
ちゃき。
そばにあった剣を拾い、首筋に当てる。
「答えろ! これがお前の本気か!? 素手の女にさえ勝てんのか!?」
それは、らしくない、怒り。
「悪かったな・・・」
低く呻くようにして、ゼルガディスが呟く。
「だが・・・・・・つけあがってもらっちゃ困るぜ・・・。明かり(ライティング)!」
かっ!!
「ぐあっ!」
至近距離から照らされた光明に、目を焼かれる。
その間に体制を直し、新たな呪文を唱える。
「冥壊屍(ゴズ・ヴ・ロー)!」
「フン!」
目を押さえつつも、翼で空へ舞い上がる。
「ちっ・・・」
舌打ちしながらも、再び呪文を唱え出すゼルガディス。
戦いは、始まったばかり────

#10・了



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