もっと強く生きられる? きっと夢は叶う?

#6 獣将軍リディス・その3



「勘違いするな。今回、私は貴様と戦うために来たのではない」
いまだ警戒しているリナ達に言うリディス。いや、正確にはゼルガディスか。
憎悪の視線を彼へ向けている。
「それを信じろって言うの・・・」
呻くように呟くリナ。
目の前にいる少女がどれほどの実力かは知らないが、あのゼルガディスを余裕で倒すくらいの腕だ。
全員で向かっても、恐らく勝ち目はない。
しかもリナはあの日ときている。
・・・・・・・・・・・・・・・今、戦ったら・・・・・・間違いなく、やられる。
「信じる信じないはそっちの勝手だが・・・。人の親切を無駄にすると後悔するぞ?」
「悪人の親切などはいりません! そこに居すわりなさい、群狼の白い魔女!!
この正義の申し子、王女アミエラが成敗して差し上げます!」
・・・・・・・・・オイ。
「行きます! とぅっ!!」
アミエラが、掛け声一発大きくジャンプ。
「直伝! セイルーンキィィィィックっ!!」
そのまま、リディスに向かって蹴りを放つ。
が。
「魔風(ディム・ウィン)」
ごぉうっ!
アミエラに突きつけたリディスの右手から風が舞う。
「わきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ずしゃべてっ!!
・・・・・・・・・・・・風に飛ばされ、ものの見事に吹っ飛ぶアミエラ。
「フン・・・・・・人の話を無視するのはセイルーン王家の礼儀か? 
醜いな・・・・・・・・・・・・天使の歌声とやらを・・・・・・・・・聞きたくはないのか?」
「そんな・・・・・・! どうしてあなたが神託の内容を!?
アミエラを助け起こしながら、アメリアが声を上げる。
「精神世界(アストラル・サイド)から、そっちの会話を聞いていた・・・・・・といえばわかるかな?」
フン。
「私がその『天使の歌声』とやらを知っていたとすれば・・・・・・どうする?」
「・・・・・・その保証は、どこにもないけどね」
リナが身もフタもなく言い放つが、それにも動じず、
「賭をしないか? 過去よりの来訪者」
「賭・・・?」
ゼルガディスの呟きに、リディスは口元を少しだけつり上げる。
「そうだ。私は三日後、セイルーンを滅ぼしに来る」
『なんですっむぐぅ!?』
アメリア親子の口を塞ぎつつ、先を続けるように促すリナ。
「私が女王の首を取れば、賭は終わり。全てを壊し、お前達も殺す。
だが・・・逆に私が負けを認めれば、お前達の勝ち。歌を聞かせることを約束しよう」
「あんた・・・・・・・・・本気で言ってるの・・・!? 
そんなくだらないことで、国をも巻き込むなんて・・・・・・!!」
「くだらない? フン。お前達にとっては大事なことだろう?」
まるで詩でも朗読しているような、淡々とした口調。
「・・・・・・・・・いーじゃないの・・・。
このリナ・インバース様にケンカ売ったってこと、後悔させたげる。
ただし、ウソついたりしたら、神滅斬(ラグナ・ブレード)でしばくから。覚悟しといてよ」
(こいつならやりかねん・・・)×3
「フン。できるものなら、な」
一瞬、リナとリディスの間に火花が走る。
「───そうそう、女王アメリア」
ふ、と思い出したかのように、リディスがアメリアに呼びかける。
「『こっち』のリナ・インバースなら・・・10年前に死んだぞ」
!!
アメリアとアミエラ、そしてリナとゼルガディスの顔に驚愕が張りつく。
それを確認して、リディスは姿を消した。
それと同時に、闇が晴れ、変わりのない部屋の風景に戻る。
紅茶はすでに冷めていた。

・・・・・・オオォォ・・・オ・・・。
嘆きのような音が、その黒い空間を支配していた。
そこにあるのは、青い等身大の水晶と、それを見上げる金髪の女だけ。
水晶の中には人がいた。
年は二十歳ぐらいだろうか。
黒い短髪に華奢な体つきの青年。まぶたは固く閉じられ、眠っているようにも見える。
「・・・・・・何度見てもいい男よね〜」
ぽつりと感想を述べる女。
しゅん。
「只今戻りました。獣王様」
虚空を割って、女に会釈をするニコ目中間管理職。
「ん〜、お帰り、ゼロス。リディスは?」
視線を反らすことなく、ゼロスに問う獣王──ゼラス・メタリオム。
「いえ・・・・・・もう少ししたら帰る、と」
「ふ〜ん。またどっか壊してないでしょうね〜。
迷惑かかるのはこっちなんだから。アレ、あんたの管理下でしょ?」
「いっ・・・いえ、それはないと思います・・・・・・・・・・・・・・・多分」
とか言いつつ、頬に流れる汗がなかなかぷりてぃ。
「・・・・・・ゼルガディスさん・・・ですか」
「カッコいーよね〜。いつ見てもさ〜」
心底嬉しそうにくすりと笑う。
「前々から欲しいとは思っていたんだけど、あの女がとことん邪魔するもんだから。
2年もかかっちゃったじゃない」
「そりゃそうですよ。なんていっ・・・・・・すみません。なんでもありません」
ゼラスの睨みに、あわてて謝るゼロス君。ため息をついて、水晶に目を移す。
そして。
(なんていったって・・・・・・妻ですからね・・・)
そっと、心の中で、言うはずだった言葉を吐いた。


                       #6・了


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