「勘違いするな。今回、私は貴様と戦うために来たのではない」
いまだ警戒しているリナ達に言うリディス。いや、正確にはゼルガディスか。
憎悪の視線を彼へ向けている。
「それを信じろって言うの・・・」
呻くように呟くリナ。
目の前にいる少女がどれほどの実力かは知らないが、あのゼルガディスを余裕で倒すくらいの腕だ。
全員で向かっても、恐らく勝ち目はない。
しかもリナはあの日ときている。
・・・・・・・・・・・・・・・今、戦ったら・・・・・・間違いなく、やられる。
「信じる信じないはそっちの勝手だが・・・。人の親切を無駄にすると後悔するぞ?」
「悪人の親切などはいりません! そこに居すわりなさい、群狼の白い魔女!!
この正義の申し子、王女アミエラが成敗して差し上げます!」
・・・・・・・・・オイ。
「行きます! とぅっ!!」
アミエラが、掛け声一発大きくジャンプ。
「直伝! セイルーンキィィィィックっ!!」
そのまま、リディスに向かって蹴りを放つ。
が。
「魔風(ディム・ウィン)」
ごぉうっ!
アミエラに突きつけたリディスの右手から風が舞う。
「わきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ずしゃべてっ!!
・・・・・・・・・・・・風に飛ばされ、ものの見事に吹っ飛ぶアミエラ。
「フン・・・・・・人の話を無視するのはセイルーン王家の礼儀か?
醜いな・・・・・・・・・・・・天使の歌声とやらを・・・・・・・・・聞きたくはないのか?」
「そんな・・・・・・! どうしてあなたが神託の内容を!?
アミエラを助け起こしながら、アメリアが声を上げる。
「精神世界(アストラル・サイド)から、そっちの会話を聞いていた・・・・・・といえばわかるかな?」
フン。
「私がその『天使の歌声』とやらを知っていたとすれば・・・・・・どうする?」
「・・・・・・その保証は、どこにもないけどね」
リナが身もフタもなく言い放つが、それにも動じず、
「賭をしないか? 過去よりの来訪者」
「賭・・・?」
ゼルガディスの呟きに、リディスは口元を少しだけつり上げる。
「そうだ。私は三日後、セイルーンを滅ぼしに来る」
『なんですっむぐぅ!?』
アメリア親子の口を塞ぎつつ、先を続けるように促すリナ。
「私が女王の首を取れば、賭は終わり。全てを壊し、お前達も殺す。
だが・・・逆に私が負けを認めれば、お前達の勝ち。歌を聞かせることを約束しよう」
「あんた・・・・・・・・・本気で言ってるの・・・!?
そんなくだらないことで、国をも巻き込むなんて・・・・・・!!」
「くだらない? フン。お前達にとっては大事なことだろう?」
まるで詩でも朗読しているような、淡々とした口調。
「・・・・・・・・・いーじゃないの・・・。
このリナ・インバース様にケンカ売ったってこと、後悔させたげる。
ただし、ウソついたりしたら、神滅斬(ラグナ・ブレード)でしばくから。覚悟しといてよ」
(こいつならやりかねん・・・)×3
「フン。できるものなら、な」
一瞬、リナとリディスの間に火花が走る。
「───そうそう、女王アメリア」
ふ、と思い出したかのように、リディスがアメリアに呼びかける。
「『こっち』のリナ・インバースなら・・・10年前に死んだぞ」
!!
アメリアとアミエラ、そしてリナとゼルガディスの顔に驚愕が張りつく。
それを確認して、リディスは姿を消した。
それと同時に、闇が晴れ、変わりのない部屋の風景に戻る。
紅茶はすでに冷めていた。
・・・・・・オオォォ・・・オ・・・。
嘆きのような音が、その黒い空間を支配していた。
そこにあるのは、青い等身大の水晶と、それを見上げる金髪の女だけ。
水晶の中には人がいた。
年は二十歳ぐらいだろうか。
黒い短髪に華奢な体つきの青年。まぶたは固く閉じられ、眠っているようにも見える。
「・・・・・・何度見てもいい男よね〜」
ぽつりと感想を述べる女。
しゅん。
「只今戻りました。獣王様」
虚空を割って、女に会釈をするニコ目中間管理職。
「ん〜、お帰り、ゼロス。リディスは?」
視線を反らすことなく、ゼロスに問う獣王──ゼラス・メタリオム。
「いえ・・・・・・もう少ししたら帰る、と」
「ふ〜ん。またどっか壊してないでしょうね〜。
迷惑かかるのはこっちなんだから。アレ、あんたの管理下でしょ?」
「いっ・・・いえ、それはないと思います・・・・・・・・・・・・・・・多分」
とか言いつつ、頬に流れる汗がなかなかぷりてぃ。
「・・・・・・ゼルガディスさん・・・ですか」
「カッコいーよね〜。いつ見てもさ〜」
心底嬉しそうにくすりと笑う。
「前々から欲しいとは思っていたんだけど、あの女がとことん邪魔するもんだから。
2年もかかっちゃったじゃない」
「そりゃそうですよ。なんていっ・・・・・・すみません。なんでもありません」
ゼラスの睨みに、あわてて謝るゼロス君。ため息をついて、水晶に目を移す。
そして。
(なんていったって・・・・・・妻ですからね・・・)
そっと、心の中で、言うはずだった言葉を吐いた。
#6・了
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