もっと強く生きられる? きっと夢は叶う?

#19・母と父に捧げる最終曲(フィナーレ)



「あんた、これからどうするの?」
あたしは、やたらとデカイ魔方陣を書いているリディスに聞いてみた。
なんでも、これがその問題の天使の歌声=時を越える術だそーだ。
「しばらくここに留まろうと思う・・・。魔道の研究を少ししたいからな・・・。
それから・・・・・・群狼の島へ・・・。ゼルガディスを・・・・・・・・・助ける」
ざ。がりがり。
チョークと地が触れ、音を出す。
「・・・・・・・・・・・・帰れるかどうかはわからんがな・・・」
「帰りなさい。あんたには、その資格があるわよ」
「・・・フン・・・・・・言うと思ったぞ・・・」
「だったら言わないの!」
笑って、ばしんとリディスの背を叩く。
「いてっ! もーちょっと力加減できんのか? お前は・・・・・・」
背中をさすりさすり、リディスがぶつぶつと不平を呟く。う〜。なんかゼルに言われてるみたい・・・。
あ、そーいえば。
「ゼルガディスとレインは?」
「さっき、二人きりで話があるとか言ってたが・・・」

「・・・・・・・・・お前なあ・・・」
「どこか気に入らない所でも?」
額を片手で覆うゼルガディスと、いぶかしげな顔をするレイン。
よく見ると、なぜかゼルの顔が完熟トマト・・・。
「どこでこんなモン・・・」
「リナ・インバースの所持品はすべて排除してあったんですが、奇跡的にこれだけは」
涼しい顔で言い放つ娘の従者に対し、ゼルガディスはますます赤くなる。
「オレからの、感謝の印とでも」
にこ、と笑顔を見せる。
「ま、とりあえずもらっておくぜ」
しょーがない、とでも言いたげな顔で呟く。
「そうそう、あいつを落とすのなら早めにしておけよ。
どこぞの女魔道士の血を色濃く受け継いでいるらしく、鈍感ボケボケ娘だからな。あいつは」
お返しとばかりにゼルガディスが付け足す。それに、今度はレインが赤くなった。
・・・・・・・・・魔族に赤くなる、とかいう動作があるのかはともかくとして。
「ゼルー!! どこ行ったのよー!! 置いてっちゃうよぉーー!?」
遠くで、リナの声が聞こえる。少し怒っているな。あれは。
ぷんと頬をふくらませているリナの顔が目に浮かぶ。
「・・・・・・行くか」
「はい」

「中心に立ってくれ。それと・・・これ以後、何があっても手を離すなよ」
出来上がった魔方陣の中のあたしたちに、リディスが指示をする。
う・・・・・・手を繋ぐってゼルとぉぉぉぉ? 嫌じゃないけど・・・なんかなぁ〜・・・。
そう思っていると、ゼルがあたしの耳元で囁いてきた。
「手が嫌だったら腕でもいいんだぞ?」
「ばっ馬鹿!! いじわる!」
なんちゅーこと言うのよ! あんたは!
「お前ら・・・・・・・・・漫才はあとでやってくれ・・・頼むから」
あ、リディス脱力してる。
えぇ〜い! もぉどーとでもなれ!!
あたしはヤケクソ半分でゼルの手を握る。
「いっ・・・いーわよ!」
声がうわずっているのは無視よ! そこ! 笑わない!!
にっとリディスが笑う。そして、両手を掲げ、詠唱に入る。
──遥かな夢よ 闇に浮かぶ星 蒼き流れが 静かに灯る
  等しく 優しく 其の祈りは ぬくもりの象徴──
薄い──本当に薄い蒼い光が魔方陣を取り込む。
レインが、リディスの真横で口を動かしているのが見える。
二人がかりの・・・・・・呪文なんだ・・・。
──現実より現実に近く 過去より遠い 汝らの在るべき<場所>に
  汝らの帰るべき<場所>に 祈りが届くように──
──我は──
──ここに──
『誓願す』
フィィィィィィ・・・・・・。
光が輝きを増す。リディスの顔も、もう見えない。
ぎゅっと、あたしはゼルの手を握りしめる。
岩でできているハズのその手は、冷たいのに暖かくて。あたしは少し安心した。
元の時代に戻れなくったって、このまま光の中にいたって、隣にゼルがいるなら。
あたしはどんなことでもやっていける。

主よ 願わくば
この者たちに 加護のあらんことを──

フィン・・・・・・。
それからどれくらいたったのだろうか。あたしたちは、見知らぬ草原に立っていた。
「・・・・・・もど、れた?」
「さあな」
あたしの問いに、答えるゼル。さあなって・・・・・・・・・。
「ん〜・・・これからどーしよっかな〜」
思い切り伸びをする。いろんなことがあったからな〜。
リディスや、レイン。アミエラや、未来のゼルにあたしのこと。
まだごちゃごちゃしてるけど──
「とりあえず、ガウリイ達と合流しよっか。心配してると思うし」
「そうだな・・・あ、リナ」
ゼルがふと思い出したようにごそごそと懐を探る。
そして取り出したのは。
「・・・・・・ロケット?」
何の変哲もなく、何の飾りっ気もない銀のロケットペンダント。だった。
「レインが俺たちに、だとさ」
あたしたちに・・・?
疑問に思いながら中を見ようと──
「リナさーーーーーーん!! ゼルガディスさーーーん!!」
「リナーーー!!」
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえた。
振り向けば、こちらに駆け寄る二つの影。
「アメリア! ガウリイ!!」
「も〜! なんでこんなとこにいるんですか!? 私達あれからずいぶん探したんですよ?」
アメリアが怒った口調であたしに言う。
「アメリア、よね?」
「? 私ですけど?」
きょとんとするアメリア。そっか・・・・・・よかった・・・戻れたんだ。
ほぅっとため息をつく。
「俺たちがいなくなって・・・何日たった?」
「へ? まだ二、三時間ぐらいしかたってねーよなぁ? アメリア」
「ええ。いきなりお二人が消えてしまったので、手分けして探していたら、蒼い光が村の裏手に見えて・・・」
「(時間の経ち方がずれているらしいな)」
ゼルがあたしに耳打ちしたその瞬間。
「あれ、これなんですか?」
アメリアがひょいと何かを・・・銀色に光る何かを拾う。・・・・・・ってげっ!?
「お、おいそれは・・・!!」
あたし以上にあわてて、ゼルが何か。すなわちロケットを奪おうと手を伸ばす。
いっ・・・いつのまに落としたんだろ!? っつーか・・・何が入っているんだろうあの中・・・。 
かち。
ふたを開け、中身を見るアメリアとガウリイ。
ぴきききききききっっ!!!
そして二人同時に硬直する。なっ・・・何々?
あたしは中を見ようと顔を──
・・・・・・え──
「・・・・・・だからよせって言ったんだ・・・」
照れたような、ゼルの声が聞こえる。
中には。
ゼルと・・・・・・赤ん坊を抱いたあたしが映っていた。
・・・・・・・・・この子は・・・。
「り、りりりりりりりりりリナさん・・・・・・!! ゼルガディスさんとこんな関係に・・・!」
「ぜ、ゼル〜。お前さん意外とやるなぁ〜」
「なっ! 何言ってるのよ!! これはそのっ・・・」
「おっ・・・俺は別にそんな・・・・・・」
「大丈夫です。リナさん。もぉこーなったら私、諦めます。その赤ちゃん大事にして下さいね・・・」
「ちょっ・・・・・・ちょっとアメリア!!」
「ゼルガディス・・・。リナのことよろしくな・・・俺の保護者の役目はここまでだ・・・・・・」
「だ、旦那! これはちがっ・・・」
現実逃避に入るアメリアたちと、狼狽するあたしたち。
「・・・で、その子のお名前は?」
アメリアが覇気のない声で問う。
う・・・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あたしとゼルは顔を合わせて・・・・・・小さく笑う。
この子は──あたしたちの子。
『リディス──』


                
もっと強く生きられる? きっと夢は叶う?・了



浅島美悠様へ

本当に最後の章をいただいてから、UPするまで、洒落になら無い程時間がかかってしまって本当に申し訳ありませんでしたm(__)m。

そして、お疲れ様でした。本当に素晴らしいお作品をありがとうございました。

で、その・・・・また何かお書きになられましたら・・・拝読させてくださいねっっ!!(厚かましいわ!!)
私はもう何時でも手ぐすね引いてお待ちしておりますので!!


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