もっと強く生きられる? きっと夢は叶う?

#11 黒鍵による『運命』 ──微笑は 紅に染まりつつ──


「リっ・・・・・・リナ様ぁ!!!」
アミエラが、倒れるリナへと駆け寄る。
「リナ様! リナ様、しっかり!!」
泣き叫ぶアミエラに、虚空から現れたレインが魔力球を投げる。
「っ! 翔封界(レイ・ウィング)!!」
ひゅぉう!!
リナを抱き抱え、その場から離れるアミエラ。レインは、なぜか黙ってそれを見送った。
ある程度距離を──もといくずれかけた路地を二、三度曲がり、降り立ち、リナの体を横たわす。
(お願い・・・・・・成功して!!)
目をつむって精神を集中。印を組んで、呪文を唱える。
「復活(リザレクション)!!」
突き出した両手。
リナの体に、リナを助けるために突き出した両手。
だが、ただそれだけだった。
「・・・・・・・・・・・・」
力なくうなだれ、今度は治療(リカバリィ)を唱える。白い光がリナの体を包む。
(・・・どうして・・・・・・どうしてこんな時に・・・・・・使えないんだろう・・・)
ため息をつく。
(・・・・・・母さんは、私ぐらいの時にはもう・・・復活(リザレクション)使っていたのに・・・)
私・・・巫女の才能・・・・・・・・・ないのかな・・・。
「う・・・・・・」
リナの呻き声で、はっと我に返る。
「リナ様! 大丈夫ですか!?」
「あてて・・・・・・・・・アミエラ・・・あいつは・・・?」
「一応撒きました。でも・・・すぐに・・・・・・・・・」
起き上がるリナが、ぽんぽんとアミエラの頭を軽く叩く。
「サンキュ。治してくれて」
にこっと微笑み、きっと右手を睨み付ける。空色の髪を持った青年が、そこにいた。
「リナ様、ここは私が!!」
静かに立ち上がったアミエラが、リナの前に進み出る。
そうよ・・・・・・ここで私が戦わなきゃ・・・。こんな時ぐらい守らなきゃ・・・。
私は『人間の理想郷』聖王都セイルーンの第一王女。
女王アメリアの娘、アミエラ・レェル・ディア・セイルーン!
「命に代えても、リナ様とゼルガディス様をお守りいたします!」
構えて、レインを見据える。
「・・・・・・・・・守る・・・か」
ふっとレインが呟く。悲しみとも虚しさともいえる色を、瞳につけて。
それは、魔族にはない感情。絶対、魔族にはありえない感情。
なのに、自分は持っている。
あの少女を。
あの悲しすぎる少女を守りたいという。
『想い』を。
その顔を見て、一瞬アミエラが緊張を解いた。
そこを狙って、レインが針を呼びよせ・・・・・・・・・。
うわぁああぁぁあ・・・・・・。
!!
「リディス様!?」
その叫びは、青年が守ると約束した少女のもの。
・・・・・・だった。


ぐごぉう!!
空を飛んだ瞬間、轟音と共に、後ろから衝撃が来た。
「うわぁああぁぁあ!!!」
背を直撃したのは、セイルーン兵士による魔法砲の一撃だった。
赤い翼は術者のコントロールを失って消え、リディスはそのまま落下していく。
「やったか・・・・・・!?」
誰かが呟く。
「油断はするな! 相手はあの群狼の白い魔女だ! まだ生きているやもしれん・・・!」
落下するリディスに、ピントを合わせつつそう答える老兵士。
「第二砲、攻撃用意! う・・・・・・」
そこで────
兵士は見た。
ゼルガディスは見た。
そこにいる全員が見た。
フン。
指先を軽く動かし、口元から言葉を出している魔女の姿を!
「下れ 裁きよ 今此処に!」
リディスの前に、身長の半分ほどの光の玉が現れる。
そして、力ある言葉が放たれた! 
「天裂破燐爆(ギル・ディ・ガリアス)!!」
カアアアアァァァァァ!!
巨大な光球がその光を増し、魔法砲兵団を目指す!
鱗粉のように光のかけらを撒き散らしながら、空を直進する!!
「ぜ、全員退避ーーーーー!!!!」
言うが否や、兵士達は我先にと逃げ出す。
光球は激突する寸前に分裂し、無数の光の線が追い打ちをかけるがごとく地とぶつかる!!
ズドズドズドオオオオオン!!
「フン。飛封翔翼(レイ・リアネル)」
赤い翼を再度生やし、とっ・・・と降り立つ。
「まったく・・・・・・奇襲とは卑怯だな・・・。醜いぞ・・・・・・フン」
「強がりはそこまでにした方がいいんじゃないか?」
ゼルガディスが、髪をかきあげるリディスに言い放つ。
いくら岩の肌とはいえ、それにも限度というものがある。
事実、リディスの背は・・・翼の根元は、真っ黒く炭化している。
術を制御するのも・・・・・・いや、しゃべるのも苦痛なはずだ。いつ倒れてもおかしくない。
ゼルガディスはそのことを指摘したのだろう。
「フン。なんだ? 心配でもしてくれるのか?」
ククッと小馬鹿にしたように笑みを漏らす。その顔に── 一瞬、リナの顔がダブった。
ひゅんっ!
「リディス様!! お怪我は!」
虚空を割って、レインがリディスに近寄る。
「大丈夫だ。それより、小猿はどうした?」
「そんなはずないでしょう!! 背中に・・・・・・」
「大丈夫だ」
繰り返し、剣を構え直す。
「レイン、予定を変更する」
「はっ・・・?」
リディスの発言に、素っ頓狂な声を出すレイン。
「いくら私とはいえ、この体のまま戦を続けるには無理だ。先にアレを手に入れる」
「・・・・・・?」
アレ?
訝しげな顔をするゼルに、リディスが話しかける。
「城に来い・・・お前一人でな・・・。フン・・・・・・」
バサっ・・・。
ふわっ。
同時に舞い上がる二人。そして、城の方へと姿を消した。
「・・・・・・・・・・・・」
ゼルガディスは無言でその場に立ち尽くし────
やがて静かに、翔封界(レイ・ウィング)の詠唱を口にした。


                           #11・了



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