永かった────
総てを呪い・・・総てを恨み・・・総てを失くした・・・。
幼き日の、あの時から・・・。
これで・・・総てが終わる・・・・・・。
すべてが・・・・・・・・・。
アルト山、中腹の祠。
「これが・・・・・・魔血球(デモン・ブラッド)のタリスマンか・・・」
四つの、紅の球・・・・・・。す、と手を伸ばして掴む。
「・・・・・・・・・意外だったな・・・こんなに・・・・・・。
・・・小さくて、軽いものだった。とは・・・・・・・・・」
日の光は雲に隠れ、灰色に染まっている。
「永かった・・・・・・」
呟く。
「永きに渡って・・・偽り続けた・・・・・・・・・」
この十八年間・・・・・・安息という文字はなかった・・・。
「幾度なく血を流し・・・・・・傷ついて・・・立てなくなることもあった・・・・・・」
初めてひとを殺めたのは六歳の頃・・・・・・。
『リディスちゃん。国を滅ぼしてらっしゃい』
──忘れもしない。
ルヴィナガルド・・・・・・。
そういう名の・・・・・・小国だった・・・。
「手も、身体も、顔も・・・・・・翼でさえも・・・・・・血で真っ赤に塗られた・・・。
何百という国を滅亡(ほろぼ)し・・・・・・何千という人を消滅(け)した・・・・・・。
呪われた運命(みち)にそって・・・・・・」
群狼の白い魔女──
カチャ・・・。
『もっと血を浴びなさい。リディス。私達の仲間と認められたければね』
カチャ・・・。
『雨はいいな・・・・・・レイン・・・。何もかもを流してくれる・・・』
カチャ・・・。
『魔性に堕ちた女などに、やられるとは・・・・・・』
カチャ・・・。
『フン。まるで磔(はりつけ)にされたキリストだな・・・。ゼルガディス』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「レイン・・・・・・私は・・・馬鹿な女だな・・・・・・」
髪の一房を掴むと、しゃらりと不快な音が響く。
「本当に・・・・・・馬鹿な・・・ククク・・・・・・・・・」
自然と、笑いが込み上げる。自分のやっていることが、あまりにも馬鹿馬鹿しくて。
「クク・・・・・・アハハハハッ!!!」
『リディス様・・・』
「アハハハ・・・・・・ハハッ・・・」
こんなものを使っても・・・・・・奴を倒せるわけがない・・・。
!!
「フン。どうやら、尾けられていたようだな」
振り向く。
「どうもこんにちは。リディスさん」
おかっぱ頭に黒装束の神官服と錫杖。
顔にあるのは、気分の悪くなるような笑み一つ。
「ゼロスか。フン」
ポツッ・・・ポツポツッ・・・・・・ザァー・・・。
雨が降り出す中、リディスとゼロスが対峙する。
「一体どういうことでしょうか? リディスさん。そんなモノなど手に入れて」
小首をかしげる。
「まさか・・・・・・・・・。獣王様に反逆をするおつもりですか?」
無言。
それは、肯定の証。
「困りましたね〜」
ちっとも困っていない口調で、ゼロスが呟く。
「前々から不審に思っていたんですよ。あなたの行動がね」
「・・・・・・飛封翔翼(レイ・リアネル)」
ばさっ・・・。
「・・・・・・『魔族のために戦っているあなた』が、『人間の味方』をするのではないか、とね。
『しっぽを出すかも』との獣王様の命令で、見張っておいて正解でしたよ」
じゃりっ・・・。
ゼロスが一歩踏み出す。
「魔族をだますために、数々の殺戮を繰り返してきたようですが・・・」
にこっ。
「残念でしたね。裏切り者さん(はぁと)」
っっ!!!
「ゼロスゥゥゥゥ!!」
翼を羽ばたかせ、剣をゼロスに向かって振り下ろす!
ガキイイッ!!
錫杖と剣が交差し、火花を散らす。生じた剣圧が、辺りの物を吹き飛ばす!
『リ・・・・・・リディス様ぁぁ!』
キンッ!
ギキッ!!
キィィッ!!
「フンっ!!」
ギィィン!!!
「くすくす・・・。あなたは可哀相なお方ですねぇ。リディスさん」
ギギ・・・。
「何だと・・・・・・っ!」
「だってそうでしょう?」
キンッ!
「赤子の時から、人であるのに魔族として育てられ」
ギゥンッ!
「父に売られ、親の愛など知らずして、父を憎み」
「くっ・・・」
キィィィッ!!
「そして、その父を救うがために。
魔族をあざむき、だますために。
人間を殺し・・・・・・その身を焦がした」
ガキィィ!
「あなたの人生は裏切りの連続ですねぇ。リディスさん」
「やっ・・・」
「人の血を持ちながら、人を裏切り」
「止めろ・・・・・・!」
「今度は魔族(なかま)たちまで裏切ってしまわれた」
「うるさい!!」
「天使の翼を持ちながら・・・」
「うるさい!!」
「あなたは魔族以上に魔族らしい」
「黙れェェェェ!!!」
ギャァンッッ!!
「くあっ!」
ずしゃあっ!
リディスの一撃で、ゼロスが吹っ飛ばされる。
「・・・さ、さすが・・・・・・・・・ゼラス様の力をもらっただけのことはありますね・・・」
状況がわかっているのか、それともまだ何か企んでいるのか。
ゼロスはニコ目のままそう言い放ち、リディスに向かって人指し指を突きつける。
ジャキ!
剣を構えなおし、そのまま振り下ろす! 相討ち覚悟で。
「ゼロスッッ!! 覚悟・・・・・・」
──音もなく。
視界に青いガラスが入った。
黒い短髪。
両の目を固く閉じた、若い男。
──何故・・・。
「おっ・・・・・・・・・」
手を伸ばす。
──何故あなたが・・・・・・。
「おと・・・う・・・・・・さん・・・・・・」
──こんな、とこ、ろに・・・?
リディス。これがゼルガディス。
あなたを裏切り、売った、何も語らない・・・・・・。
あなたの父よ──
ズッ・・・。
刹那、ゼロスの錫杖が、リディスの胸を貫いていた。
「あ・・・・・・」
ぴ、と赤い液体が一滴、水晶にはねる。
ズバッ!!
そして、錫杖は翼を斬った。
『リディス様ぁぁぁー!!!』
#13・了
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