セイルーンや王宮は、相変わらずにぎやかだった。
「さ、行きましょうか。母さんが待ってますから!」
アミエラが、赤い絨毯の続く廊下をすたすたと歩く。……こーゆーところは母親譲りらしい。
「ねえ、アミエラ。ちょっといっかな」
「はい。何ですかリナ様?」
「い、いや、『様』はいいから」
「確かに。リナにはもったいないからな」
ゼルがしみじみと頷く。
むかっ!
「ちょっとゼル。どぉゆーことよ!?」
「さあ?」
ぐぅぅぅぅぅぅっ……。
何よその人をバカにしたような態度わ! おにょれ、ゼルガディス許すまじっ!
「……いいな。らぶらぶで」(ポツリ)
ぴぴくっ!
あたしとゼルの耳が一挙に動き、かみつくように声の主、アミエラに怒鳴る。
『誰がらぶらぶだ(よ)っ!!』
「えっ…あ、ああっ! ごめんなさいっ!」
びくっと身を引いて慌てて謝る。…ったく……こんなのらぶらぶじゃないもんっ!!
(あたしも同感っ! By作者)
まあ、ゼルは一応置いといて。
「どうして、あたし達が未来から来た事とか知ってんのって言ってんのよ」
「ああ。それはですね」
歩みの速さを変えぬまま、アミエラが説明をする。
それによると、彼女の母──つまりアメリアに、一週間前神託が下ったという。
「それが、あたし達のことを指してたってことね」
「はい。でも、今回の神託は正確にことを表し過ぎてて怖いくらいだって、母さんが言ってました」
「ふ〜ん……」
「俺からも、一つ聞いていいか?」
ゼル。
「はい。私にわかる事ならなんなりと」
「……あの獣将軍(ジェネラル)リディスって奴は──
一体何者だ?」
「今現在、倒すべき悪ですっ!!」
どっぱぁ〜ん(←何だよこれ…)
立ち止まって振り向き、力強く断言する。…拳とポーズはオマケか……?
「彼女は獣王(グレーター・ビースト)の支配下において、あちこちで国や村を滅ぼしている大罪人です。
この前はセレンティア・シティが──その前はヴェゼンディ・シティが。
意味もなく! ただひたすら! 罪もない民の命を奪い、薙ぎ殺す!!
こんなことが許されるはずありません!! 私が地の果てまで追い詰めて、正義の鉄槌を……」
「あ〜、ゼルが聞きたいのはそーゆーことじゃなくてね」
何やらアツく語るアミエラを現実に戻すあたし。………このままだと、さらに彼女の正義説と私説の混ざっ
たのを聞かなくちゃいけないみたいだし…。
「彼女は『具体的に』どんな人なのか、ってことよ」
「………具体的に……ですか…。まず、獣王の部下──ってことは言いましたよね?
彼女の強さは並じゃありません。まさに、獣将軍の名を語るのに相応しいくらい」
また背を向け、歩き出すアミエラ。つられてあたし達も。
「その呪文が口から放たれる時、何百という国を滅し。
その剣が閃く時、何千という人間を殺す。女も子供も、老人も、笑いながら…殺し続ける」
ゼルの口から、ぎりっ…と歯を噛み締める音が聞こえる。
……………そっか……。ゼルは、もともと闇の世界で生きてきたんだっけ…。
わかるんだ………その人の気持ち…。
「意味もなく──ただひたすら殺し続ける、魔性の女。
残虐非情な、白い、魔女──」
アミエラが言い終わった時、ちょうど謁見の間についた。
「リナさん! ゼルガディスさん!!」
王座のアメリアは……性格は変わっていなかったけど、綺麗だった。
前より少し背も伸びたし、髪はあたしより長い。思わず見とれてしまった……っでぇ!?
「リナさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!!」
がばぁっ!!
「きゃっ…!」
いきなり抱きついてきたアメリアを支えきれず、ついつい尻餅をついてしまうあたし。
ちょっちょっとアメリア〜。それをするならゼルの方でしょ?
そう言おうとして………気がついた。アメリアの頬が濡れている。
「リナっ……ふぇ………リナっさ、んっ……えっ……えっ……」
「アメリア……あんた…泣いて…?」
あまりの出来事に、あたしもゼルも、アミエラまでもが呆然とする。
……そんっなに…あたしと会えた事がうれしかったのかな……?
「あの〜……アメリア…。その…退いてくれないと…起きられないんだけど……」
「…っ……っあ、ご、ごめんなさい…」
両目を擦り、いそいそとあたしから離れるアメリア。
「あんな取り乱した母さん……初めて見た…」
かすかなアミエラの呟きをあえて無視する。
「さて、と。感動の再会も終わった事だし、さっさか本題に移らせてもらうわよ。アメリア。
あたし達が、元の時代に戻る方法ってのは……あるの?」
うつむくアメリア。しばらく沈黙が訪れる。
そして……。
「……ええ。だって、そのためにお呼びしたんですから」
アメリアは、にっこりと笑って見せた。
「ほんじゃ、ちゃっちゃと話してね。こちとら歩きっぱなしで足が棒なのよ」
「え、えと、リナさん…。とりあえず私の部屋で話しませんか? 香茶とクッキー用意しますから」
「おおっ! 何年立っても気が利くところは変わってないわね♪」
よかった〜。実は昼食抜きでずーっと歩いてたから、お腹ぺこぺこなのよね〜。
「ねえねえ、あとさあとさ。軽〜い昼食頼めない?」
「ええ。もちろんですよ」
「おいリナ、腹八分目で我慢しておけ。セイルーンの食物倉庫が空になる危険があるからな」
むかっ!!
「んなわけないじゃない! 人を底無し沼みたいに言わないでよね!!」
「リナ様ってそんなに食べるんですか? 母さん」
「そりゃあもう。あのガウリイさんと張り合えるぐらいでしたから」
「へえっ! すごいですねっ!」
あっちはあっちで母娘団欒してるけど……。
………なんか……こんなんでほんっっとに……。あたし達、元の時代に戻れんのかな〜…。
#4・了
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