「静かになったわね・・・・・・」
あたしはぽつりと呟いた。
傷はまだ、半分しか治っていない。それほど深手だったのだ。
「・・・・・・・・・あの・・・レイン、って魔族・・・」
治療(リカバリィ)をかけつつ、アミエラが言う。
「なんか・・・悪人に見えなかったんです・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしは無言で。じっと、食い入るように空を見つめている。
「母さんから聞いた話では、魔族には感情はなく・・・上下関係で成り立っているって・・・。
でも、あの・・・・・・・・・・・・レインって・・・・・・」
言葉を切って、うつむくアミエラ。
言うべきかどうか、迷っているのだろう。
「・・・・・・・・・ほん、きで・・・リディスのことを・・・・・・・・・心配していたような・・・。
それに・・・・・・リナ様の放った魔法・・・。
あれ、手ではたいたのは・・・・・・もしかしたら・・・・・・うしろにいた、リディスに・・・。
・・・・・・・・・とばっちりが・・・・・・ないように、する・・・為だったの・・・・・・かも・・・」
悲しいような、虚しいような。
レインがして見せた、そんな表情が、あたしの脳裏に浮かび上がる。
・・・・・・・・・リディスも・・・。
「リディスもそんな感じだったわね」
あたしがこんなこと言うのも変だけど、ね。
心の中で、そう付け足して。
「何かこー・・・・・・憎しみで固まっている、あの冷たい瞳(め)にも・・・・・・・・・。
寂しさ・・・・・・悲しさが・・・あったような・・・」
始めてあった時の・・・・・・ゼルに、似てて・・・。
刹那。
しゅっ!
突如、アミエラの姿が消えた。
「アミエ・・・・・・っ!!」
立ち上がろうとしても、激痛が脇腹に走る。
「こんな時に・・・・・・ったく!」
思わず傷口を押さえて、呻く。
・・・・・・・・・・・・こんな芸当できるのは・・・・・・あいつらだけ・・・。
アミエラ・・・・・・!!
セイルーンの王宮、謁見の間にて。
玉座の前に飾られた・・・・・・いや、置かれた巨大な水晶球に、三つの人影が映る。
一つは、赤い翼を持った異形の少女。
もう一つは、空色の髪の青年。
そして、その青年の小わきに下げられた、小柄な少女。
「姫様!」
「アミエラ姫様が!!」
アメリアはその映像を睨み付け、立ち上がる。
ほとんど同時に姿を現すリディス達。
フン。
「か・・・・・・母さん・・・っぐ!?」
リディスの手が、アミエラの首に伸び──そのまま締める。
「女王アメリア。答えてもらおう」
静かな・・・抑揚のない声で問う。
「魔血球(デモン・ブラッド)のタリスマンはどこだ?」
『っっ!!』
アミエラとアメリアが、小さな叫びを上げる。
「十八年前・・・・・・リナ・インバースがお前に預けて行ったのは調べがついている・・・。
────どこに隠した?」
ぎりっ・・・。
「あ・・・・・・ぐぅ・・・・・・」
「アミエラ!!」
アメリアが悲鳴も似た声を出す。
「早く言わんと・・・・・・娘の首が折れるぞ」
力をゆるめず、淡々と言い放つリディス。
「母・・・・・・・・・さ・・・・・・言っちゃ・・・・・・だめ・・・。わた、し・・・・・・は・・・・・・かまわ・・・・・・はぐっ!」
「黙れ」
絞められた、その圧倒的な力よりも。
その一言に、アミエラは身を震わせた。
その言葉の裏には、すさまじい程の殺気と・・・・・・同じ──いや、それを上回るくらいの怒気が
潜んでいたから。
と。
扉が──伸びた絨毯の奥の大扉がいきなり開き、白い影が現れた。
「光よ 我が身に集いて閃光となり 深淵なる闇を打ち払え!!」
『混沌の言葉』が流れた。
「烈閃砲(エルメキア・フレイム)!」
一条の光が、リディスに向かい──
ずどおぉぉぉぉぉんっっ!!
レインがとっさに放った魔力球と相殺した。
「ちっ・・・」
舌打ち一つ、またもや印を組み────硬直した。
無数の空色の針が、ゼルガディスを囲んでいた。
レイン。
フン。
ぐっ・・・・・・。
「つぁっ!!」
アミエラが、苦痛に顔を歪ませる。
「やめて! やめなさい!」
その光景に、思わず叫ぶアメリア。
「どこにある? 魔血球のタリスマンは」
冷やかな問い。首を絞める手。我が子を想って、震える母。
「こっ・・・・・・・・・ここより南にある・・・アルト山の中腹に・・・・・・・・・。
だから・・・・・・・・・お願い・・・・・・」
あえぎ、泣き、手を伸ばす。
「娘を・・・放して・・・・・・・・・お願いです・・・」
・・・・・・・・・・・・。
「フン」
とんっと背をつき、アミエラを放す。
「げほこほっ! っ・・・・・・く!」
むせながらリディスをきっ! と睨むアミエラを。
母は優しく抱きしめた。
「アミエラ・・・・・・よかった・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
『誰にでもいるものです。
何かを教えてくれたり、抱きしめてくれたり、想ってくれたり・・・・・・』
「・・・フン。一時休戦といこうか」
バサッ。
舞い上がり、ゼルガディスに言い放つ。
「用事ができたからな──フン」
「・・・・・・・・・さてさて・・・。獣王様の言ったことはどうやら当たりだったらしいですね・・・」
ニコ目の獣神官(プリースト)は舞い上がる紅いの影を確認した。
「くすくす・・・・・・。おもしろくなってきましたね・・・」
笑いながら、消えた。
#12・了
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