ぼすんっ。
あたしはベットに、倒れるようにして仰向けに寝っころがる。
・・・・・・疲れたってこともあってこーしてんだけど・・・・・・。
「はぁ・・・」
しっかし・・・・・・厄介なことになったなぁ・・・。よりによってあたしが死んだ?
冗談じゃないわよ。あたしはもっと根太く生きて、世界中のおいしいものを食べまくるのが
夢なのに! 30代で死亡なんてまっぴらごめんよ。
あのリディスの言葉を信じれば、の話だけどね。
・・・・・・・・・そーいえば・・・・・・。
「あの子・・・本当に・・・・・・・・・」
「どうした? リナ」
「わひゃおう!!」
い、い、い、イキナリ顔近づけんなゼルガディスゥゥゥゥゥ!!!
あわてて起き上がって、イモムシさんのごとくずりずりと後退する。
・・・・・・って・・・ちょっと待てぃぃぃぃぃ!!!
「上着着ろ! 上着!! 乙女の前でなんっちゅうカッコを!!」
「下は着ているんだし、別にいいだろう?」
「よかないわぃっ!!」
ガルルルルル・・・。(リナちゃん、威嚇の唸り。(笑))
「あーわかったわかった」
しょうがないな、とでもいうような。そんな声。
うう・・・・・・なんであたしがゼルと一緒の部屋に・・・・・・。
アミエラが言うには、『2週間後に行う、赤の竜神のお祭りにお呼びしている神官様や
巫女さんもお呼びしているんで、ここしか・・・・・・』ってことだったけど・・・。
ベットは一つしかないし、床で寝るにも布団はなし。
でも、こんなところでワガママ言っても何の得にもならないし・・・・・・。
つーことで一応OKはしたんだけど・・・・・・。
あの日じゃなかったら、火炎球(ファイヤー・ボール)の一つはぶっ放してたぞ!
「しかしお前、自分が死んだって聞かされてよく平気だな」
上着を着終わったゼルが、髪をふきふきあたしに問う。
・・・・・・キレーだよね〜いつ見ても・・・。って・・・・・・こんなことしてる場合じゃないってば。
ぽ〜っと見とれるのを慌てて中断、ゼルに答える。
「そりゃまー、あいつが口から出任せ言ったかもしれないし。
イキナリ言われて実感もわかないんだもん」
ぱ。と両手を広げて、あたしは『わかんない』のジェスチャーをする。
「それにほら、よく言うじゃない? 人生には無限の可能性があるってさ。
その無限の可能性の一つがここだったとすれば、もしかしたら、あたしの思い通りの
未来も、過去に戻ってから作れるじゃん」
「・・・・・・お前の思い通りの未来ってのはちょっと・・・」
・・・・・・・・・一体何を想像した、おまいわ。
「ゼルにはないの? そーゆー、自分の夢ってヤツ」
「・・・・・・・・・一応・・・あることはあるが・・・」
「へー、どんなの?・・・・・・あ、そっか! ゼルは人間になるのが夢だったんだっけ」
「ちがう」
・・・・・・・・・え?
あたしは、否定の声を上げたゼルの顔を、まじまじと見つめてしまった。
・・・・・・・・・あり? 顔がちょっち赤い・・・?
「い、いやその・・・・・・。確かに、人になるのも俺の夢なんだが・・・。
・・・・・・・・・・・・もう一つあって・・・・・・・・・・・・・・・今のところは、それが最優先だな・・・」
「ナニそれ。あ、まさかとは思うけど・・・・・・」
途端、からかいモードに入るあたし。
「ステキな彼女持って、小さな白い家に住んで、幸せに暮らすとか!?」
直後、ゼルが硬直した。・・・・・・・・・おひおひ・・・それってまひゃか・・・。
「似たよーなモンだが・・・」
どんがらがっしゃーん!!
あまりと言えばあまりな発言に、あたしはそばにあったちゃぶ台をひっくり返した。
「あんたはなんっっで!! ンな旧石器時代の女の子が言いそうなことさらっと口にするワケ!?」
「なんで王宮の部屋にちゃぶ台が・・・・・・?」
「細かいことは気にしない!」
しぴっ! と人さし指一本おったて、ゼルを黙らせる。
「しっかし・・・カノジョねぇ・・・。ゼルって今好きな女の子いる?」
なるべく、平静を装って聞いてみる。
ほとんどが勢いだったけれど、前々から気になっていたから。
「・・・・・・ああ」
どくんっ。
心臓が高鳴る。あたしは見たことがなかった。ゼルが、こんなに綺麗に笑うなんて・・・。
「綺麗で、優しくて。
色々な意味で強かったな。あんなスゴイ女、今まで見たことなかった」
やめて。
「あいつといると心が安らぐ。
どんな不可能でも、可能にできる・・・そんな気に、させてくれる」
もういい。
やめて。
「体が元に戻らなくても、あいつと一緒なら・・・」
「やめて!!」
あたしは叫んでいた。この時、なんてバカなこと聞いたんだろうって思った。
「やめて・・・・・・もういい・・・。もう・・・・・・やめて・・・」
震えてしまう肩を、両手で抱きしめる。視界が滲んで、慌ててうつむく。
「リナ・・・?」
やめて・・・・・・あたしじゃない女の話をしないで・・・・・・。
あたしじゃない女に、そんな綺麗な笑顔を見せないで・・・・・・。
「あたしじゃない女を・・・好きにならないで・・・・・・あたしだけを・・・・・・見て・・・」
口に出していた。いつの間にか。
驚愕の気配がした。
でも。どうでも、よかった。
ただただ下を向いて、床に落ちて行く自分の涙を見つめていた。
その時。
ふわっと軽く、唇に何か触れる。暖かいような、冷たいような。
「・・・!?」
目を思い切り見開く。そこにあったのは、ゼルの顔。
なん・・・・・・で・・・・・・・・・あた、し・・・ゼルと・・・・・・・・・キスして・・・る?
「・・・・・・誰がお前じゃないっていった?」
静かに呟いて抱きしめる。
「ちょっ・・・・・・ゼル!」
「なんで気づいてくれない! みんなお前のことだ!! 俺が好きなのはお前だ!
俺がずっと想っていたのはお前だけだ!!」
まるで、なにかを吐き出すようにして叫ぶゼルガディス。
「え、え、え、え、え、え・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」
急な展開についていけず、混乱しまくるあたし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・・・・え・・・。
『綺麗で、優しくて』
あれは・・・。
『色々な意味で強かったな』
あれは全部・・・。
『あんなスゴイ女、今まで見たことなかった』
『あいつといると心が安らぐ』
『どんな不可能でも、可能にできる・・・そんな気に、させてくれる』
みんな・・・・・・あたしに・・・・・・?
そうわかった途端、ぽんっと顔が完熟トマトになった。
「な、なんで最初にそー言わないのよ! それ以前にそんな素振りしなかったじゃない!」
「お前が人並み以下に鈍すぎるんだよ! それに・・・・・・」
「なによぉ・・・・・・あたしだって・・・」
「旦那がいたから」
「アメリアと仲良さそうだったから」
『てっきり・・・・・・』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
沈黙がその場に落ちる。あたしの涙は乾いていた。
「ぷっ・・・・・・アハハハハハっ!」
唐突に、抱きしめていた手を放してゼルが笑い転げる。
可笑しくて、可笑しくて、たまらないとでも言うくらい。
「何笑って・・・・・・ふっ・・・く・・・クク・・・っ」
『アハハハハハハっ!』
なぁ〜んだ・・・。一人でバッカみたい・・・。両思いだったんじゃん。
ぺたんと二人とも床に座って、今度は痛くなったお腹を押さえる。
「ちゃんと・・・はっきり言ってくれなきゃ・・・・・・わかんないじゃない・・・」
「それは・・・こっちのセリフだ・・・・・・」
ふと顔を上げる。目と目がぶつかって、動けなくなる。
ゼルが、くいっと顎をひかせ、顔を近づけてくる。
あたしは小さく笑って、ゆっくりと目を閉じた。
その先を知るのは、お月さまとお星さまのみ。
・・・・・・・・・いや。もう一人・・・。
だが、『それ』を人と呼んでいいのだろうか。
部屋の様子を、木の枝に腰掛けて見ていたのは・・・・・・。
一本の剣、だった。
リディスが腰にぶら下げていた、ブロート・ソードである。
『・・・・・・・・・』
『それ』は無言でその光景をしばしながめ───
やがて、虚空を割って消えて行った。
#7・了
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